鼈甲の細工物

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弘紀がこちらに手渡してきたものを見て、修之輔は返す言葉にさらに詰まった。それはそのまま、見覚えのある男性が持つあの形。 鼈甲の柔らかな飴色が灯明の光を透かしてとろりと光る。 贅沢な品であることは見て分かるのだが。 弘紀は獲物を捕まえてきた猫のような眼差しでこちらを見上げている。 「加ヶ里が、あそこは使っておかないと久しぶりの時はつらいから、と」   弘紀が何気なく口にした、今ここにいない女人の名前に、いつもより敏感に嫉妬を覚えたのは、二人だけの時間に割り込まれたように感じたからで、面白くない気分を正直そのままに、弘紀の手を取り、鼈甲細工のそれを握らせた。 「いつもやっているように」 「今、やってみるのですか」 頷いて先を促すと、ちょっとこちらを眺めた後、弘紀はそれを両手で持って先端から舌でゆっくり舐め始めた。 「濡らさないと、入らないから」 灯明の光に蕩ける飴の色。絡む弘紀の紅い舌。修之輔の目を見ながら、先端の凹凸に沿って舌でぐるりと舐め、なぞる。何回か繰り返したその後は、根元から先端に沿って舌を這わせ、先端から中ほどまでを咥えて出して、そして唇で挟んで横に咥えた。 やがて鼈甲細工のそれは、くちくちと濡れた唾液の音を立て始めた。 耐えきれないのは先ほどから。もう一度、をおあずけにされているからで、修之輔は思わず弘紀の手を握り、その口腔の中深くまで鼈甲のそれを咥え込ませた。 喉奥の柔らかな粘膜を先端で擦り、少し引いて頬の内側に押し当てると形が外からも見て分かる。 反対の頬の内側にも押し当てて、舌を絡めるよう促して、喉の奥まで押し込んで、吸い付く唇から引き出して。何度も繰り返すと、やがて弘紀の口の端から唾液が溢れて垂れ、流れた。 鼈甲の先端を舐る弘紀に顔を近づけて顎に垂れる唾液を舐めとったその後に、口から出させた鼈甲の先をそのまま弘紀の唇に押し当てた。そうして間近に見つめ合い、修之輔は自分の唇も鼈甲に押し付けた。 修之輔が弘紀の唾液を舐め取りながら鼈甲のそれに舌を這わせると、弘紀は長い睫毛に縁どられた目を軽く瞠ってその様子を間近に見つめた後、再び自分も舌を絡ませた。 互いの唇の間に濡れる鼈甲の精巧なその形。 一本の鼈甲のそれを二人して舐め合う行為に、互いの息が荒くなる。 いつもの口づけよりも触れ合う場所は少ないはず、なのに。 唇が、舌が、触れるか触れないか、熱い息が鼻を、頬を、互いの肌を湿らせていく。 弘紀が先端をこじるように舐めれば修之輔は根元近くから細やかに再現された裏の筋を舌でなぞる。鼈甲のそれを持つ弘紀の手首にも二人の唾液は混じり合い、流れ、纏わりつく。 垂れる雫を絡め取った指で弘紀の後ろに触れて拡げると、 「あ…………、んっ」 弘紀が声を喘がせた。既に一度は済ませているそこは、修之輔の指を受け入れて、ほとんど抵抗なく広がった。 「あっ、ん、修之輔様、それ…… 、かたい……、はぁっ」 修之輔のよどみない手管に鼈甲細工は根元まで弘紀の体の中に挿入されて、油断していた弘紀の口から押し殺しても声が漏れた。 後孔に鼈甲細工を咥え込んだ弘紀が肩で大きく呼吸する。修之輔はその弘紀の体を横に抱き、頭を押さえて自分の足の間に引き寄せた。 「弘紀」 名を呼んでその先の動作を促すと、弘紀は無理な体勢はそのままに、素直に修之輔のそれを指で掴んで手繰り寄せ、口いっぱいに頬張った。 根元に触れる弘紀の熱い息と唇の感触に、痺れるような快感が背筋を上る。 ここまでしか口に入らない、と上目遣いの目だけで訴えてくる弘紀の髪をそっと撫で、 「それで良いから」 と先を促すと、先程目の前で見せた舌の動きをそのまま、弘紀は唾液を絡めるように修之輔の陰茎を舐め始めた。 弘紀の口元からはすぐにぴちゃぴちゃと濡れた音が立ち始める。
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