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七色の鱗が見つかったらしい──。
洞窟の奥深くで目を輝かせ、そんな噂を口にしたのは相棒のレイだった。
「でたらめだ、そんなもの。くだらない」
オリバーは冷たく言い放つと、今日の戦利品の果実酒の蓋を開け、おもむろに口を付けた。
透き通る琥珀色の液体が、酒が回り緩くなった口元から垂れる。床に落ちた水滴は、焚き火の炎に照らされ宝石のように輝いた。
数十年寝かしたとされる、貴重な酒だ。
「相変わらず、もったいない飲み方をするね」
聞く耳を持たないことが癪に障ったのか、口を尖らせるレイをオリバーは鼻で笑った。
「何言ってんだ。俺たちには明日飲めるなんて保証はない。たまにはおまえも飲めよ」
グイッと突き出された果実酒は、レイの喉を通り抜けた。あっさりとして飲みやすい、されど芳醇で奥深い香りが鼻から抜ける。
「おいしいね。これはうまい」
「おいおい、おまえこそもっと良い言葉があるだろ? こんな極上の一品に対して、なんて幼稚な言葉だよ」
「仕方ないよ。僕は普段……飲まないんだから……」
「まったくもったいないのはどっちだよ。って、おい! レイ!」
久しぶりの酒で眠りに落ちたレイは、今日の仕事がよほど疲れたのか、鼻風船まで作っている。
「まったくおまえは。いつもそんな風に穏やかならいいけどな」
オリバーはぼやくと、藁で編んだ毛布をレイにかけた。
七色の鱗に触れし者の願いが叶う──。
その伝説は数年置きに耳にすることがある。忘れた頃に噂が流れてくるのだ。
だが、何者かがそれを手にしたという確かな証拠はない。
「レイ、おまえはそれを見つけたら、なにを願う?」
オリバーはつぶやくと、果実酒を飲み干した。
この生き方にはいずれ悲惨な終わりが来る。その時にはせめて笑顔でいたいものだ──。
レイの首元にある、両親の形見と言っていた首飾りを見つめると、オリバーもあくびをし、寝床に着いた。
魔獣と呼ばれる男の大きないびきと、人間の微かな寝息が、静かな洞窟で混ざり合っていった。
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