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第一章 終わりの始まり
── 序 ──
雨が降る。
灰色の空から降り注ぐ雨が、建ち並ぶ天幕を激しく打ち付ける。
その谷間を縫うように、甲冑姿の人の群れが右往左往している。
突然の隣国サヴォの侵攻から約一年。
いよいよ王都ラベナ奪還の戦を目前にして、士気は否応なく高まっている。
その甲冑の群れからわずかに外れ、一人の年若い騎士が陣の中央ヘ向かって歩を進めていた。
無骨な兵士達も、その姿を認めると改まって等しく礼をする。
彼らに一目おかれたその騎士の名は、ホセ・デ・アラゴン。
今は亡きフエナシエラ神聖王国の大将軍の名を継ぐ者であり、王位継承者パロマ侯の筆頭騎士でもある彼は、その漆黒の髪から『黒豹』の異名で敵から恐れられている。
そんな厳つい役職とは対象的に、ホセは整った顔に柔和な微笑を浮かべながら丁寧に兵士達に会釈を返す。
そうこうするうちに、彼は本陣の一際大きな天幕にたどり着いた。
足を止めひと息つき、雨に濡れた長い髪を煩げにかき上げてから姿勢を正し、声をかけた。
「……お邪魔しても宜しいでしょうか?」
「構わない」
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