22人が本棚に入れています
本棚に追加
短いが、はっきりとした返答を確認してから、ホセは中に足を踏み入れる。
そこには、彼とさして変わらぬ年代の、やはり甲冑に身を固めた青年が虚空をみつめたたずんでいた。
「……さすがの貴方でも、決戦を前にすると緊張するんですね」
ホセに声をかけられると、青年はわずかに顔を上げ苦笑を浮かべた。
青い瞳にはいたずらっぽい光が宿り、短く切りそろえられた淡い色の髪が揺れる。
「戦うことは、怖くない。負ければすべてが終わるだけだ。けど……」
「けれど?」
わずかに首をかしげるホセ。
対して青年は、再び虚空をみつめる。
そして、ためらいがちに口を開いた。
「俺が王都に入っても、皆は俺を認めてくれるだろうか。皆が待ってるのは、カルロスだ。でも……」
ひと度、青年は言葉を切り目を閉じた。
「あいつ……カルロスは、もういない……」
両者の間に、重苦しい空気が流れる。
だが、ホセは常と変わらぬ穏やかな口調でそれを遮った。
「皆を守り助けたいと願う気持ちは、殿下も貴方も一緒でしょう? だからこそ殿下は貴方にすべてを託した。違いますか、バル?」
最初のコメントを投稿しよう!