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── Ⅰ ──
いつもであれば市が立っているはずの街が、閑散としている。
彼は唖然として周囲を見回す。
と、人々が街の中央にある聖堂へ集まっていくのが見えた。
慌てて彼もその後を追う。
聖堂の丸屋根の上に翻っているはずのフエナシエラの海の色の旗は、なぜか無かった。
一体何が起きたのだろう。
わけもわからず彼は聖堂を見つめる。
と、厳つい騎士たちが何やら立札を掲げているところだった。
しかし、皆が文字を読めるわけではない。
ざわめく人々を前にして、一際豪奢な甲冑をまとった騎士が、大音声で高札を読み上げた。
「神聖王国国王と称する者及び大将軍は、偉大なるサヴォ王ヒューゴ五世陛下によって討ち取られ、諸君らは晴れてサヴォの民となった。しかしその嫡子は我らに恭順せず、未だ逃亡中である。叛逆者とそれに与する者を見つけた場合は、速やかに……」
ざわめきが、大きくなる。
大変なことになった。
権力に無関係な庶民でも、それくらいのことはわかる。
彼は騎士たちに気付かれないように後ずさると、静かにその場所をあとにした。
自分たちの国フエナシエラが無くなった。
早く村に戻って皆に知らせなくては。
彼は街を飛び出し、村へと向かう山道へ足を向けた。
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