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「ところで、なんであんな所に?」
背に揺られながら問う殿下に、やや間をおいてから彼は答えた。
「その質問、そっくりあんた達に返すぜ。……俺は、下の街に立った市に買い出しに出た帰りなんだ。でも、行ってみたらそれどころじゃ無かった」
彼の言葉に、背の上の殿下は僅かに身を硬くする。
それに気付かぬふりをして、彼はさらに続けた。
「うちの村は僻地だから、秋に税金を納める方向が変わるだけだろうけど。偉い奴らはどうだか」
「そこまで知っているのに、私達が何者か聞かないのか?」
突然の殿下の言葉に、彼は思わず笑った。
そして改めてこう言った。
「悪い、自己紹介がまだだった。目下から名乗るのが貴族様ヘの礼儀だったっけ」
後ろから着いてくる黒髪の青年が何か言おうとしたが、彼はまったく気にする様子はない。
あっけらかんとした口調でこう言った。
「俺は、バル。物心つく前からここにいる」
「バル?」
「本当はもっと長いらしいんだけど、面倒くさいから忘れた」
裏表ない彼……バルの言葉に、殿下の顔に笑みが浮かぶ。
そして、さも面白いとでも言うように殿下は名乗った。
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