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 屋上の扉を開くと、さーっとゆるやかに通り過ぎた心地のいい温もりを乗せた風が、腰まで伸びる髪の毛をたなびかせた。 ——もう一年が終わったんだよね。  年をとると時間の流れが早くなるっていうけれど、あれは本当なんだなと実感できる。というか、してしまう。  たぶん、幼かった頃に比べて知らないことが減ってきたからなんだろうと思ったけど、私の場合はそうじゃないとすぐに考え直した。  扉を閉めると、一人には広すぎるぐらいの空間の中を一番隅っこに移動して、膝を抱え背中を丸める。  斜め上を見ると、青空の中にまばらに雲があった。ありふれていて新鮮味に欠ける景色だけど、それは平和を知らせてくれているような気もするから、悪く言うのも憚られる。 「平和だなー」 本当に平和だ。  どれだけの犠牲の上にこの平和は成り立っているのか不思議になるくらい平和だ。たった一人の人間がこの世界のどこかで死んでしまったとしても、それはそう易々と変わらないんだろうと思う。 「幸せになりたいな」  そうぼやくと、自然と頬が緩むのを実感できた。自分の乙女チックさに。  しばらく、ぼーっとしていると。  がたっ、と音が聞こえた。振り返ると、ドアノブが回っていた。映画とかなら、ここで撮影がスローモーションになって超重要人物が出てくるところだろうーーが、現実はあっけない。  一瞬だった。 「よっ」  時間の流れは現実的でありながらも、展開の方はその逆。  私は、自分の顔が熱くなるのを感じた。  この平和な世界で彼と一緒にいられたら。  私がそう恋心を抱いていた男の子が、そこにはいた。
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