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「なんでここにいるの?」
「いちゃいけねーの?」
私の好きな人——夏川智貴は軽い感じでそう返して、私の方へと近づいてくる。そして、隣に腰かける。
「お前さ、いつもここにきて何してんの? クラスで変人扱いされ始めてるぞ」
朝登校したときと昼休みと放課後、私はいつもここに訪れている。ここ三か月程ずっとだ。
確かに、屋上に一日三度。昼に弁当を食べるという用事を除けばやることはない。変な奴扱いを受けても仕方がない。真剣にそんなことを思った。
「別に、変人でいいよ」
クラスメイトと仲良くしてるのなんて、ただ、平和な毎日を送りたいからにすぎない。
周囲の人間が内心で私のことを悪く思っていても、私自身、自分を取り巻く環境が悪辣にならなければそれでいいと考えている。
「じゃ、これから変人って呼ぶな。よろしく変人」
「やっぱりやめて」
智貴と喋るときは、取り繕った自分で接しなくていいから気が楽だ——クラスで愛想笑いを浮かべるときと違って。
「で、真面目な話、どうして変人はいつもここに来てるんだ」
ちょっとだけ真剣な雰囲気を出して聞いてきたので隣を振り返る。彼の瞳は、私の瞳を捉えていた。本当に気になっているようだ。
私は気恥ずかしくなって目を逸らした。見つめ合うと自分の浮かべている顔を細かいところまで想像してしまって、変な気持ちになった。
智貴が、シリアスな声で訊いてくる。
「変人、もしかしてイジメられたりとかはしてないだろうな」
「変人変人言わないで。別にイジメられてないから。というか、どうして急にそんなこと訊くの?」
そらしていた顔を智貴に向ける。
智貴は、にかりと笑った。
「小咲のこと、好きだからかもしれないな」
私の心臓はその言葉に反応して、今まで生きてきた中で一番跳ね上がった。
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