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「さあな。それは本人以外に解りようがないんじゃないか。少なくとも、吸血鬼は彼だけだ。この世に、他に吸血鬼はいないんだろ?」
トムソンの確認に、ラグランスは小さく頷く。
「おそらくですが、他にはいません。よく吸血鬼に噛まれた者が吸血鬼になるって伝承がありますが、我が国の吸血鬼には当てはまりません。食い殺されて終わりなんです」
「――」
それは重い事実だなと、トムソンもラピスも顔を顰める。ということは、吸血鬼の身に堕ちてしまったマクスウェルは、孤独に生きているということか。
「俺は、一人の人間が食い殺される場面を見ました。マクスウェルは首に噛みつき、血を啜り、そして肉を食らった。その場面を見ているからこそ、その、ここでのことが信じられないっていうか」
ラグランスも、ここまで意気揚々とやって来た気分が萎んでいた。魔導師になれば、賢者になれば解ると思っていた吸血鬼の秘密も、未だに解らず終いだ。
吸血鬼と呼ばれるものは、おそらく伝承されているよりももっと複雑なものだ。だから、神に背くという行為が必要なのではないか。それが、ラグランスが三年間考えて得られた結論だ。
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