堕天の魔導師

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 そのクロマン王朝の西の端、そこに、吸血鬼になってしまったマクスウェルの支配する地域があった。ひたすら森を歩いてきたラグランスは、ようやくその支配地域の入り口が目に入る。といっても、古びた旗があって、ようこそルビジ町へと書かれているだけだが。 「あれか」  もともとは、小さな町だった場所だ。いや、今でもちゃんと町だ。しかし、他の地域との交易が途絶えて久しい。マクスウェルの献上品としてあれこれ支給されているというが、経済活動が完全に止まっているはずだ。地獄絵図を覚悟して旗の下を抜けると 「あれ?」  意外にも普通だった。人々が行き交い、楽しそうに生活している。 「ええっと」  伝え聞いたところによると、それはもう最悪の状況だということだったが、どういうことだろうか。飢餓が蔓延し、盗み殺しは当たり前。死体はそのままマクスウェルの元に運ばれて、ご機嫌取りに使われているなんて話まであったのに。ところが、至って普通の光景が広がっている。何だか出鼻を挫かれた気分だ。 「噂って、当てにならないなあ」
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