堕天の魔導師

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 寒冷な気候であるので、日頃着ることに問題はない。ないのだが、常に魔導師ですよと宣伝しながら歩かなければならない。これが、意外と精神的にきつい。もちろん、魔導士資格を持つからにはそのくらいの気構えが必要ということなのだが、ラグランスにはきつかった。 「いや、だって無理な時もあるじゃん」  思い出してはつい言い訳をしてしまう。うっかり脱いで出歩いてしまったのが悪いのだが、それだって理由があってのことだ。旅に必要なものを揃えたいのに、あちこちで 「魔導師様、どうか有り難いお話を」  だとか 「病を得たものがおります。どうぞご祈祷を」  と呼び止められる。これが非常につらい。まったく先に進めない。自分のことを優先するなということだろうが、ラグランスには明確な目的がある。それなのにと、その目的が全く果たせそうにない。多くの人を救うため、マクスウェルに会いに行くという目的のためには、ちょっとの規則違反は仕方ない。そう考えてのことだったが、世の中、そんな理由が通るほど甘くなかった。 「ラグランス神父。枢密院に来るように」
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