湊君と俺

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湊君と俺

 俺の親友の、(みなと)の話をしようと思う。  俺達が出会ったのは小学生の時のことだった。俺は、すぐに湊のことが好きになった。何故なら、俺には出来ないことがたくさん出来るからだ。――いや、本当は他にももっといろんな理由があるはずなんだけども、うまく言語化できないからそういうことにしておこうと思う。  自分に出来ないことが出来る奴。そういう相手に対して人が抱く感情は、嫉妬か、尊敬か、無関心かのほぼ三択だろう。俺はお世辞にも優等生とは言えないクソガキだったので、今まで嫉妬するか、良くて無関心が多かった。俺よりかけっこが早い奴にはいつも“途中で転んでしまえ”と呪いをかけていたし、俺よりイケメンでモテる奴は“鼻血でも出して不細工になっちまえ”と思っていた。まあようするに嫉妬深くてまったく可愛げのない奴だったのである。  しかも、いわゆるガキ大将タイプ。  ちょっと可愛い子には“ブース”だの“バーカ”だの言っちゃって余計嫌われる系。体が大きくて、力も強くて、喧嘩っ早い乱暴者。――本当は、とても臆病な性格だったくせに。  で、湊はそんな俺とは正反対のタイプだったわけだ。  中性的な顔立ちで、いつも本ばっかり読んでいる大人しくて成績優秀なタイプ。穏やかに優しく喋るから女の子にも凄くモテる。それでいて、かけっこは結構速い。具体的に言うと、当時の五年生のクラスで俺の次に速いくらいだったと思う。  まあはっきり言って、最初は気に食わない奴だと思っていた。何度も絡んでやろうとして、そのたびに自慢の足で逃げられるということを繰り返していたから尚更に。まともに話す機会もなく、ただ“女子にモテるムカつくやつ”という印象ばかり強くなっていく。そりゃ、好きになる要素なんか微塵もなかっただろう。  それがひっくり返ったのは、夏休み前のことだった。 「おい、今なんて言ったんだよ!」  俺はびっくりした。あの湊が、他のクラスの男子に廊下で絡まれているのを見かけたからだ。隣のクラスのガキ大将で、俺のライバルその1みたいなポジションの奴だった。ガキ大将は、今にも湊の首根っこを掴んでぶんなぐろうとしていた。まさに、ジャイアンがのび太をぶっ飛ばす三秒前といったところの光景である。  状況はまったくわからない。でも、なんだか俺は無性に腹が立ってしまった。湊の奴、俺からはいつも逃げ回るくせに、なんであんなつまらない奴に捕まっているんだと思ってしまったのである。 「ぐえっ!」
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