湊君と俺

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 ***  それからなんとなく、湊と俺は普通に話すようになったのだった。喧嘩が弱いから、速く走れるように足を鍛えたということ。乙女チックだと馬鹿にされるのが嫌で、いつも読書の時は本にカバーをかけて読んでいたこと(ここでようやく、俺は彼がいつも本にカバーをかけていた事実に気づいたのだった。興味がなくてよく観察していなかったのである)。 「少女向けレーベルって言われるかもしれないけど、奥が深いんだよ。良かったら風見君も読んでみる?」  可愛いキティちゃんのストラップがくっついたポーチからスマホを取り出して、彼は自分の家の本棚を見せてくれた。少年漫画や小難しいSF小説なんかもあるが、やはり目立つのは少女漫画や少女向け小説のレーベルである。それも、明らかに恋愛系とわかるものばかり。 「恋だのなんだのより、魔法使ってバトルしたり、宇宙人や怪獣をやっつける話の方が俺は好きなんだけどな。恋だのなんだのもだもだしてるだけって、つまんなくね?それに、ヒロインは可愛いかもだけどさ。そいつが知らないイケメンとくっつくの見てたらムカつかねえの?」 「そんなことないよ、面白いよ」  俺の、子供っぽくて身も蓋もない意見も、湊は全然怒ったりしなかった。 「こういう恋愛がしてみたいな、って想像しながら読むのはすごくドキドキする。風見君も、恋をすればわかるんじゃないかな」  そう言われてしまえば、俺としては何も言えない。だって、恋愛感情なんてこの時の俺にはちっともわからないものだったからだ。  恋愛と友情の垣根は一体どこにあるのだろう。  好きって気持ちは何処から来て、何処へ行くというのだろう。  ガキっぽい小学生だったから、性的なことだって何もわかってないし、まあようするにセックスどうのなんてこともまったく考えが及ばない。結婚したいかどうかの違いだろうか?なんてことしか思わなかった。  しかし、結婚とはなんだろう。一緒に暮らしたいという気持ちで良いのだろうか。家族って一体?  お世辞にも賢いとは言えない頭で、結論を出すのはほぼ不可能に近いものだった。
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