6.乗っ取り

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 私が知る限り、彼女が企画を発表したのは一度だけ。  コネだろうが仕事として企画を考え、発表してもらわなければならないと、指導したことがある。  が、何度教えても小学生の作文のような企画書しか書けず、企画の趣旨に至っては『先輩が言ったから?』だった。  部長に『林海さんは事務要員だから』と言われて指導をやめたのだが、いつの間に企画をやるようになったのか。  もちろん、部長に聞いた。 『本人がやる気になっているのだから』だそう。 「林海きらりです! えっとぉ、資料の一ページを見てください。木曽根先輩のSNSでアンケートを取るって案は悪くないと思うんですけど――」  細かいことを気にせず、資料に目を通す。  彼女の発表が邪魔なほどよくできた企画書。  内容はともかく、企画書としての様式は守られている。  誰が作ったの……?  私の資料があれば比較できるから、この場にいる誰かとは限らない。が、恐らく宇梶さんだろう。  なぜなら、とても楽しそうにきらりの発表を聞いているから。  そういえば、先週の会議に宇梶さんが出席したのは、当初担当予定だった彼の先輩と交代してだ。  交代の理由までは聞いていないが、その時からすでにきらりの企画乗っ取り作戦が始まっていたことないだろうか。  沖課長がきらりに都合の良い立場の人間に担当を交代させたとしたら。  いや、でも、先週の沖課長はきらりの暴走に慌てていた。  考え過ぎかな……? 「――ナビゲーターは、インパクトのある、有名……俳優を――」  きらりは資料をただ棒読みしているだけ。  しかも、練習不足がわかる。いや、緊張からかもしれない。
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