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「どうだ?」
「美味しい」
「そうか」
わかりやすく嬉しそうに微笑む皇丞が、二口目を口に含む。
「こういう味、好きなの?」
「あまり飲まないかな」
「じゃあ――って! 車!」
今更だが、車で来ていることを思い出す。
「代行を頼んである」
どこまでも隙がない。
「本当はホテルのレストランで食事をして、そのまま泊まることも考えたんだがな? さすがに自制できる気がしない」
どうせ同じ家に帰るのだから、自制するのは同じではないか。
それは口に出さなかった。
今の私は、彼の自制に助けられている。
「だから、それはまた今度、な?」
見透かされている。
そして、その上で、逃さないと言われているように感じるのは、自惚れだろうか。
「皇丞は――」
私の言葉は、再びのノックの音に遮られた。
今度は支配人一人ではなく、スタッフ二人も一緒だった。
スタッフはそれぞれ両手にお皿を持っている。
まず、支配人が持っていた長方形のお皿がそっと置かれた。
「オードブルでございます。季節の野菜と――」
すごく凝ったお洒落な名前なのだが、お皿の上の小さくて瑞々しい料理をじっと見ているうちに、あっさり説明は終わってしまった。
「スープでございます」
スタッフがオードブルの横にスープを置く。
「地産牛蒡のスープは――」
シャンパン並みに透き通った液体は、確かに牛蒡の香りがする。
「魚介と季節野菜のフリットでございます」
オードブルの奥に置かれたお皿には、一口サイズのフリットが五つのっている。エビとホタテ、コーンはわかる。あとは衣に包まれて謎。
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