5.月夜

22/30
前へ
/427ページ
次へ
 ちゃんと話を聞けばわかるのに、私はそれが何なのか自分で当ててやろうと料理を睨みつけていて、説明は半分ほどしか聞いていなかった。  支配人とスタッフは私が熱心に聞いていたと思ったろう。 「ごゆっくりお楽しみください」と言い残し、三人は出て行った。 「何度も部屋を出入りされたら落ち着かないと思って。まとめて持ってくるように頼んだんだ」  確かに、一品持って来ては空いたお皿を下げていかれるのは、正しいフルコースの形なのだろうけれど、落ち着かない。 「食べよう」 「うん」  私はナプキンを膝に広げ、並ぶカトラリーの一番外側に置かれたスープ用スプーンを持つ。  オードブルから食べるべきなのだろうけれど、温かいうちに飲みたい。  ゆっくりとスプーンを差し込み、すくう。  音をたてないようにそっとすすると、一瞬で口の中に牛蒡の香ばしい味が広がった。 「美味しい」  その後の私は、ひたすら美味しいを連呼した。  何を食べても美味しいのだから仕方がない。 「幸せそうな顔して食うな」 「だって、幸せだもの」  地産豚のローストポーク、地産牛のポワレは特に絶品。  ちょっとはしたないけど、少しずつじっくり味わって食べていると、皇丞に笑われた。 「また連れてきてやるよ」と。 「そういや、食べ始める前に何か言いかけなかったか?」  そう聞かれたのは、デザート前に少しお腹を落ち着けたいと言って、先にコーヒーを飲んでいた時。  はち切れそうなほどお腹は満たされているのに、デザートを断る気にならないのは、やはり別腹だから。 「なんだっけ?」 「あ、なんかすげー気になりだした」
/427ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25786人が本棚に入れています
本棚に追加