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ちゃんと話を聞けばわかるのに、私はそれが何なのか自分で当ててやろうと料理を睨みつけていて、説明は半分ほどしか聞いていなかった。
支配人とスタッフは私が熱心に聞いていたと思ったろう。
「ごゆっくりお楽しみください」と言い残し、三人は出て行った。
「何度も部屋を出入りされたら落ち着かないと思って。まとめて持ってくるように頼んだんだ」
確かに、一品持って来ては空いたお皿を下げていかれるのは、正しいフルコースの形なのだろうけれど、落ち着かない。
「食べよう」
「うん」
私はナプキンを膝に広げ、並ぶカトラリーの一番外側に置かれたスープ用スプーンを持つ。
オードブルから食べるべきなのだろうけれど、温かいうちに飲みたい。
ゆっくりとスプーンを差し込み、すくう。
音をたてないようにそっとすすると、一瞬で口の中に牛蒡の香ばしい味が広がった。
「美味しい」
その後の私は、ひたすら美味しいを連呼した。
何を食べても美味しいのだから仕方がない。
「幸せそうな顔して食うな」
「だって、幸せだもの」
地産豚のローストポーク、地産牛のポワレは特に絶品。
ちょっとはしたないけど、少しずつじっくり味わって食べていると、皇丞に笑われた。
「また連れてきてやるよ」と。
「そういや、食べ始める前に何か言いかけなかったか?」
そう聞かれたのは、デザート前に少しお腹を落ち着けたいと言って、先にコーヒーを飲んでいた時。
はち切れそうなほどお腹は満たされているのに、デザートを断る気にならないのは、やはり別腹だから。
「なんだっけ?」
「あ、なんかすげー気になりだした」
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