5.月夜

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 そう言われても、と思いながら言いかけたことを思い出そうと考える。 「んーーー……あ、ああ!」  すぐに思い出したが、完全に話の流れが途切れた今口にするのはなんだか恥ずかしい。 「なんだ?」 「ああ……。うん。いや、いいよ」 「そう言われると余計に気になる」  少しも引く気がない彼に、私はわざと大袈裟に肩を落として見せる。 「……皇丞ってそういうところあるよね」 「そういうとこって?」 「仕事中も、なんか言いたげだって決めつけて、聞き出すの」 「そうか? けど、気持ち悪くないか? 言いかけてやめられるの」 「まぁ、それもそうなんだけど」 「だろ? で? なに」  やはり、引く気はないらしい。 「大したことじゃないよ。ただ……どうしてこんなに色々……してくれるのかなと思って」  皇丞の瞬きがまた停止し、その後笑ったさっきとは違って、今度は眉をひそめた。 「本気で言ってるのか?」  低い声。怒らせたようだ。  いや、怒っているというほどでもない。不機嫌になったというところか。 「大筋の理由は分かってるんだけど……」 「大筋って……」  表現がイマイチだったらしく、今度は苦笑いされた。 「その、皇丞が私を好きだって言ってくれるのは……疑ってないんだけど」 「全然わかってねーだろ」 「わかってます! さすがに、軽いノリでここまでしてくれるなんて思ってない」 「やっぱ、躾が必要そうだな」  皇丞はふぅっとため息をつくと、足を組み、腕も組み、椅子の背にもたれた。  彼の言う『躾』に恐怖を感じる。 「ちょ――、聞いて! だから! 皇丞が私を好き……で色々……助けてくれたり? してるのは分かってるんだけど。ただ……ねぇ? そもそも、どうして私なんかを好きだとか……が?」
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