5.月夜

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 自分でも、言っていて歯切れの悪さが気持ち悪い。  ただ、この数週間の出来事を思うと、自信満々に『ねぇ、私のどこが好きなの?』とは聞けない。  皇丞がもう一度ため息をつく。  それから、空のグラスにシャンパンを注いだ。  ちらりと私を見て、ボトルをクーラーに戻す。  私のカップにはまだコーヒーが残っている。  彼はシャンパンを一口飲み、また私をちらりと見て、もう一口含む。 「二年前の忘年会の時、だな。本気でお前を欲しいと思ったのは」 「それ、この前も言ってたよね? 私、よく覚えてないんだけど」 「だろうな。お前にとっちゃ、記憶に残るような会話じゃなかっただろうから」  何を話したのだろう。  そもそも、私と皇丞は席も離れていたし、皇丞の横にはきらりがぴったりと貼りついていたから、私じゃなくても女性社員は彼と話せていないと思う。 「その数日前、仕事帰りにお前を食事に誘ったら、あっさり断られた」 「はい?」 「俺の容姿や肩書に釣られる女だとは思ってなかったが、上司の誘いとなれば礼儀として受け入れると思った。が、あっさり断られた。『ありがとうございます。でも、上司としてのお誘いであればランチミーティングでお願いします』って」  言った、な。  御曹司の肩書を持つ鬼上司と食事だなんて、料理の味なんてわかるはずがない。まして、お酒が入ってうっかり日頃のうっぷんが口をついては大変だ。  当時の皇丞に対する私の苦手意識は、今思うと少し過剰なほどだった。 「二次会って名目なら来ると思った。お前、酔ってたし。だから、忘年会の後でもう一度誘った。けど、あっさり断られた。しかも、すげー笑顔で」 「はぁ……」  記憶にございません。
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