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「『二人きりは謹んでお断りします。直に、少しでも疑われるようなこと、したくないんれす!』だって」
まったく記憶にございません。
「酔ってても恋人への気遣いを忘れないなんて、疑いもなく本音だろ」
「はぁ……」
せっかく褒めてもらっているのだが、記憶にない上に呂律が回っていなかったことが恥ずかしい。
「ベタだけどな? 俺もそんな風に愛されたいって思った」
「……ベタ、ですね」
「俺って、意外とチョロいらしい」
皇丞がまた、子供みたいに顔をくしゃっとさせて笑った。
今日、彼のこんな風に笑った顔を、何度見ただろう。
「ま、それ以前に気になりだした理由は他にもあるんだけど」
「え、なんですか?」
「それはまた、おいおいな」
「いや、気になるんですけど!」
「お前が敬語を使わなくなって、ついでに俺がお前を好きな気持ちの半分でも俺を好きになったらな?」
今度は、大人の色気漂う微笑み。
本当にズルい。
こんな風にころころ変わる表情、私の気持ちがついていけない。
「そろそろデザートにするか」
「……はい」
皇丞が渡されていたボタンを押し、デザートを持って来てくれるように言う様を、バラ越しに眺めていた。
記憶にない自分の言葉が誰かの心を動かすなんて、どうにも複雑だ。
だって、その時の自分がどんな気持ちでそう言ったのかもわからない。
直に疑われたくないと思っていたのは事実。
なぜなら、忘年会の前に忘年会について聞かれたことで、男性のいる飲み会に行ってほしくないんだろうなと思っていたから。
課の忘年会? 部の忘年会? 他部署と合同じゃない? 二次会は行く?
まとめてじゃない。
一つずつ、日を変えて聞かれた。
でも、さすがに気づく。
で、言った。
『二次会には行かずに帰るよ』
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