6.乗っ取り

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「まぁまぁ、林海さん。今回の企画の担当は木曽根さんで――」 「――課長まで私の意見を無視するんですか!? ひどい!」 「え? いや、そんなことは――」 「――いいんじゃないですか? 林海さんの案」  男性にしては少し高めの声と気安い口調は、沖課長の部下である宇梶さん。  彼は私の二、三歳下で、優秀らしい。  さらっさらの髪が、羨ましい。 「ナビゲーターを俳優にするのは、雑誌のコンセプトからズレますか?」 「そうそう! ランキングのテーマをDシリーズに合わせれば、良くないです?」  良くないです? じゃなくて――! 「林海さん! これは木曽根さんの企画なの。勝手に――」 「――でもでも! みんなで会議してるんだし、私だってアイデア出してもいいじゃないですか? ねぇ? 課長」 「え? あ、うん。まぁ、それはそう……なんだけど……ね?」  きらりや他のみんなの視線に耐えかねた課長は、俯き、水を飲む。 「ほら! 課長もいいって言った!」  頭が痛い。  真舘さんに至っては、もはやどうでもいいと言いたげに頬杖をついて雑誌を眺めている。  皇丞がいてくれたら……。  沖課長にきらりの舵を取るのは荷が重かった。 「プレゼン……っていうかさ? ちょっと二人の企画を比べてみようか」 「沖課長!」  平井さんの声に無視を決め込んだ課長が、話を続ける。 「林海さんの意見を無視するのは良くないしね? 幸い、時間には余裕があるだろう?」  ええ! 私が余裕をもってスケジュールを組みましたから! 「一週間……、いや五日。五日後にもう一度会議をしよう。それまでに林海さんは資料を揃えて? ね? いいかな?」  課長のことだ。  きらりが主張するための土俵は用意した。そこできらりが負けても自分の責任ではない。専務からのお咎めを免れられる。  そんな風に思ってのことだろう。  いや、単にこの会議をさっさと終わらせたかっただけかも。  とにかく、五日後の来週月曜日。再び会議が開かれることになった。
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