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「はぁ~……」
誰もいない休憩スペースに、私の陰鬱なため息が響く。
買ったばかりのブラックコーヒーのキャップを力いっぱい、勢いよく回す。
バキッと音を立ててキャップが外れる。
キャップに恨みはない。が、聞きなれた破壊音に少しだけスッキリする。少しだけだ。
今の私は、百本のペットボトルキャップを回しても、きっと完全に気分が晴れたりしない。
三百五十ミリリットルのコーヒーを半分ほど飲み、今度は力の限りキャップを締めた。
「はぁ~……」
自分の企画会議をきらりに邪魔されたことへの苛立ちが三割、きらりに邪魔されたことくらいで苛立っている自分に対する苛立ちが三割、強がってはいても企画が乗っ取られてしまうのではないかという不安と焦りが四割のこの嵐のような感情を持て余す私は、自動販売機横のソファに身体を投げ出す。
頭の上には窓があり、私は身体を捻ってすっかり暗くなった窓の外を眺めた。
今日は満月だったようだ。
この窓から見える景色には高層ビルがないため、遮るものがなく見晴らしがいい。
だから、ちょうど皇丞が連れて行ってくれたレストランの方向に満月が浮かんでいるのだが、なんだかホラー映画のタイトルが浮かんできそうな妖し気な輝きに、無意識にまた「はぁ……」とため息が漏れた。
月は月。
皇丞と見た月はうさぎか浮かんで見えるんじゃないかってくらい鮮やかだったのに、今日の月は墓場の背景にもってこいのおどろおどろしさ。
お墓からゾンビが這い出てくる映画が観たい……。
「梓」
呼ばれて、声のした方に首を回す。
「直……」
驚いたのは、残業が少ない経理の直が終業時刻を二時間以上過ぎた今も社内にいたからか、経理部のフロアに休憩スペースがあるのに違うフロアまで来ているからか。
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