6.乗っ取り

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「お疲れ」 「お疲れ」  ソファに半分のせていた足を下ろし、意味もなく立ち上がる。 「梓、話が――」 「――梓」  直の言葉にかぶせて、安心できる声が私を呼ぶ。  声のした方を見て、直の表情が強張り、唇を噛む。 「お疲れ」  コツと踵を鳴らして姿を見せたのは、皇丞。 「お疲れ様……です」  直は一瞬だけ私を見て、すぐに踵を返して立ち去る。 「大丈夫か?」  皇丞が休憩スペースに入ってきて聞いた。  予定では打合せから直帰だったはずだ。 「大丈夫」  驚きはしたが、何かされたわけではない。 「何が?」 「え?」 「なにが大丈夫?」 「……企画のこと?」 「お前……」  眉間に皺をよせ、威圧的な表情で寄ってこられて、無意識に一歩後退るが、ソファに阻まれる。 「そういうとこ、可愛いけど心配で堪んないわ」 「……え!?」  そういうとこがどういうとこかも、可愛いけど心配の意味も分からず、けれど可愛いと言われて恥ずかしくなる。  咄嗟に目を伏せる。が、同時にキスですくい上げられる。  職場で何をしているのかと、慌てて両手で皇丞の肩を押す。  唇が離れるどころか、腰を抱かれ、胸と胸とが密着する。  誰かに見られたら――っ!  皇丞は、唇を重ねる以上のキスはしない。けれど、いつも、つい唇を開いてしまいそうなほど強く押し当てられ、開いてしまったらもう戻れないと怖くなって、頑なに閉ざす。  怖い?  何が?  拳を作ってぐっと肩を押すと、身体は密着したまま唇が離れた。 「なんだよ」 「なんだよ、じゃないでしょ! こんなとこ誰かに見られたら――」 「――いいだろ。俺たちの関係が周知されることが復讐に不可欠だ」
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