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「お疲れ」
「お疲れ」
ソファに半分のせていた足を下ろし、意味もなく立ち上がる。
「梓、話が――」
「――梓」
直の言葉にかぶせて、安心できる声が私を呼ぶ。
声のした方を見て、直の表情が強張り、唇を噛む。
「お疲れ」
コツと踵を鳴らして姿を見せたのは、皇丞。
「お疲れ様……です」
直は一瞬だけ私を見て、すぐに踵を返して立ち去る。
「大丈夫か?」
皇丞が休憩スペースに入ってきて聞いた。
予定では打合せから直帰だったはずだ。
「大丈夫」
驚きはしたが、何かされたわけではない。
「何が?」
「え?」
「なにが大丈夫?」
「……企画のこと?」
「お前……」
眉間に皺をよせ、威圧的な表情で寄ってこられて、無意識に一歩後退るが、ソファに阻まれる。
「そういうとこ、可愛いけど心配で堪んないわ」
「……え!?」
そういうとこがどういうとこかも、可愛いけど心配の意味も分からず、けれど可愛いと言われて恥ずかしくなる。
咄嗟に目を伏せる。が、同時にキスですくい上げられる。
職場で何をしているのかと、慌てて両手で皇丞の肩を押す。
唇が離れるどころか、腰を抱かれ、胸と胸とが密着する。
誰かに見られたら――っ!
皇丞は、唇を重ねる以上のキスはしない。けれど、いつも、つい唇を開いてしまいそうなほど強く押し当てられ、開いてしまったらもう戻れないと怖くなって、頑なに閉ざす。
怖い?
何が?
拳を作ってぐっと肩を押すと、身体は密着したまま唇が離れた。
「なんだよ」
「なんだよ、じゃないでしょ! こんなとこ誰かに見られたら――」
「――いいだろ。俺たちの関係が周知されることが復讐に不可欠だ」
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