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「もう十分知られてます!」
「まだ弱い気がするんだよなぁ」
口角を上げた笑みは、ニヤリ、という表現がぴったりで、遊ばれているようにしか思えない。
「それに、もっとすごいことしたいの我慢してんだから」
「だから、なに! 場所を考えて! 立場を考えてください!」
「そんな大きな声出すと、ホントに誰か来るぞ」
不安になって皇丞の肩越しに廊下を見る。
人の気配はしないが、だからいないとも限らない。
「梓」
視線を戻す。
意地悪な笑みが、真っ直ぐに受け止めるには恥ずかしい、穏やかで優しい笑みに変わっていて、実際に私は恥ずかしさに視線を伏せた。
イケメンという生き物は、その存在自体が媚薬のようだ。
「月が綺麗だな」
「……え?」
首を回して窓を見る。
「満月か」
満月だ。
ホラー映画が観たくなるような、くすんだ色の月。
「団子でも買って帰るか」
「ふっ……」
御曹司様の庶民に似た発想に、思わず笑ってしまった。
「なんだよ。団子、嫌いか?」
「ううん?」
「お前はやっぱあんこが好きか?」
「お団子なら醤油がいい」
「……ふーん」
「皇丞は?」
「あんま食べたことがないからよくわかんね」
なら、なぜ団子を買って帰ろうなんて?
「梓」
「ん?」
「大丈夫だ」
「え?」
「お前の企画にGOを出したの、俺だぞ? 俺がイケると思った企画が、ハズれたことはない」
すごい自信ね、と茶化そうと思ったのに、あんまり真剣に言うからできなかった。
不安を見透かされて、張ろうと思った意地がどんどん小さく萎んでいって、代わりに弱音や甘えが膨らむ。
弱気な自分は好きじゃない。
意地っ張りな自分も。
皇丞に甘えたって、状況は変わらない。
本当に、何も変わらない?
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