6.乗っ取り

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 私は皇丞の肩におでこをくっつけて顔を伏せた。 「せっかくスケジュールに余裕があったのに、台無しよ」 「そういうこともあるだろ」 「あの子のせいってのが、嫌」 「だな」 「でもぉ、だってぇ、とか甘ったるく語尾を伸ばすなっての」  皇丞が私の頭を撫でながら「確かに」と笑った。 「でも、弱気になってる自分が一番嫌」 「……」 「沖課長、専務派だし……」 「俺は違うぞ?」 「……?」 「次の会議は俺も出る」 「恋人が上司だから企画を通したとか言われるのも嫌」 「わがままだな」  そうよ。  私はわがままで面倒くさい女なの。  だから、人前では決して見せない。  誰にも、見せない。見せたことがない。  こんな私、私だって嫌いだから。  私は顔を上げ、ふぅっと肩で息を吐いた。  「ま、そんなこと言っても――」 「――可愛いわがままだ」  チュッと唇同士が触れ合う。 「なんと言われようと企画が成功すれば、それがすべてだ。それに、妬まれるのは優秀な証拠だ」  まったく、憎らしい。  皇丞に言われると、そうかと思えてしまう。  自分の悩みがやけにちっぽけに思えてきた。  肩の力が抜けて、お腹が空いてくる。 「こんな時間じゃスーパーかコンビニの団子かな」 「……だね」  腕が解かれ、いつの間にかソファに転がっていたコーヒーのペットボトルを皇丞が拾い上げる。 「飯はどうする?」 「この時間ならスーパーのお弁当が値引きされてるから、それでいいよ」 「色気ねぇな」  笑いながら、皇丞がペットボトルのキャップを捻る。  私が力いっぱい締めたキャップは、彼がほんの少し力を入れただけで開いてしまう。  私の力いっぱいなんて、そんなもんか。 「三色団子が夜ご飯でもいいよ」  皇丞は唇を捻って嫌そうな顔をした。 「寿司、半額になってないかな」  私はふふっと笑い、窓の外に目を向けた。  鮮やかな金色の月が、輝いていた。
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