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「広報部でもかなり力を入れた企画だと聞いてね」
取り巻きの重役を三人連れて入って来た専務は、そう言いながら私を見た。
「こちらへどうぞ」
来訪を知らされていなかった沖課長が、慌てて自分の座っていた上座の席を明け渡す。
宇梶さんと真舘さんは部屋の隅に置かれた椅子を持って来て、末席に座る。
「お疲れ様です。どうぞ」
きらりが余所行きの声で挨拶をし、いつの間に用意したのかペットボトルのお茶を重役たちに配る。
我が社では、お茶汲みは来客時のみで、会議などの際は重役であっても飲み物は持参。そうでなければ、こうしてペットボトルを用意する。
気が利くなと言わんばかりに、重役たちは笑顔で受け取り、きらりにひと言ふた言声をかける。
その様子を、専務が鼻高々に見ていた。
プレゼンの意味、ある?
専務を筆頭に、常務、広報部部長、企画部部長がひと声挙げれば、たとえきらりのプレゼンが、幼稚園児が将来の夢を語る並みでも、きっと彼女の勝ちだ。
そもそも、今日はきらりのプレゼンを聞くだけのはず。
なぜなら、私の企画は既に先週発表しているから。
一応、資料は用意してきた。
きらりの企画と比較されて質問が出れば、答えなければならないから。
だが、資料は自分の分だけ。先週の会議出席者は当然配られているから持っているが、専務たちの分までなんて用意していない。
私の企画書になんか興味もないか……。
「私の企画書です。ご覧ください」
だから、予定にない専務らの分まで用意してるだけで、思惑が見え見えなのよ。
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