6.乗っ取り

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***** 「広報部でもかなり力を入れた企画だと聞いてね」  取り巻きの重役を三人連れて入って来た専務は、そう言いながら私を見た。 「こちらへどうぞ」  来訪を知らされていなかった沖課長が、慌てて自分の座っていた上座の席を明け渡す。  宇梶さんと真舘さんは部屋の隅に置かれた椅子を持って来て、末席に座る。 「お疲れ様です。どうぞ」  きらりが余所行きの声で挨拶をし、いつの間に用意したのかペットボトルのお茶を重役たちに配る。  我が社では、お茶汲みは来客時のみで、会議などの際は重役であっても飲み物は持参。そうでなければ、こうしてペットボトルを用意する。  気が利くなと言わんばかりに、重役たちは笑顔で受け取り、きらりにひと言ふた言声をかける。  その様子を、専務が鼻高々に見ていた。  プレゼンの意味、ある?  専務を筆頭に、常務、広報部部長、企画部部長がひと声挙げれば、たとえきらりのプレゼンが、幼稚園児が将来の夢を語る並みでも、きっと彼女の勝ちだ。  そもそも、今日はきらりのプレゼンを聞くだけのはず。  なぜなら、私の企画は既に先週発表しているから。  一応、資料は用意してきた。  きらりの企画と比較されて質問が出れば、答えなければならないから。  だが、資料は自分の分だけ。先週の会議出席者は当然配られているから持っているが、専務たちの分までなんて用意していない。  私の企画書になんか興味もないか……。 「私の企画書です。ご覧ください」  だから、予定にない専務らの分まで用意してるだけで、思惑が見え見えなのよ。
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