6.乗っ取り

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 前言撤回。  こうなれば、きっと『きみの企画書は?』とないのをわかっていて聞いてくるはずだ。  子供染みた嫌がらせ。 「木曽根さん!」  彦谷部長が私を呼ぶ。  いつもは私たちの並びにいるのに、今日は向かい側。 「木曽根さんの企画書もお渡しして」  あるはずがないでしょう。  なぜなら、あなたたちは出席予定じゃなかったのだから。  私は立ち上がり、「すみませんが」と切り出そうとした。  ないものはない。  むしろ、いきなり来んなと言ってやろうかと思うほど、苛立っていた。 「一斉にお配りするつもりでいたが――」  立ち上がった私のすぐ横に来た皇丞が、見覚えのある資料の束を私に差し出した。  なんで……? 「――先にお渡しして」 「……はい」  明らかに、この事態を予測していた準備。  胡散臭いほど爽やかな微笑みに、私はむっつりと言った。 「ありがとうございます」  十部はあろうかという束を持ってぐるりとテーブルを回り、専務らに資料を渡す。  最後に彦谷部長をじっとりと睨みながら資料を渡した時、ノックの音とともにドアが開いた。 「失礼します。社長がお見えです」  そう言って大きくドアを開いたのは、社長秘書の(たわら)さん。  皇丞と同期で、彼同様に異例のスピード出世で社長の第一秘書兼秘書室長になった男性(ひと)。  驚くと同時に全員が立ち上がる。  入って来た社長が片手を上げて、パタパタと振った。 「座ってください。私のことは気にしないで。おもしろそうな企画があると聞いて、ぜひ聞いてみたいと思ってね。お邪魔します」  そう言われて、はいそうですかなんてわけにはいかない。
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