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前言撤回。
こうなれば、きっと『きみの企画書は?』とないのをわかっていて聞いてくるはずだ。
子供染みた嫌がらせ。
「木曽根さん!」
彦谷部長が私を呼ぶ。
いつもは私たちの並びにいるのに、今日は向かい側。
「木曽根さんの企画書もお渡しして」
あるはずがないでしょう。
なぜなら、あなたたちは出席予定じゃなかったのだから。
私は立ち上がり、「すみませんが」と切り出そうとした。
ないものはない。
むしろ、いきなり来んなと言ってやろうかと思うほど、苛立っていた。
「一斉にお配りするつもりでいたが――」
立ち上がった私のすぐ横に来た皇丞が、見覚えのある資料の束を私に差し出した。
なんで……?
「――先にお渡しして」
「……はい」
明らかに、この事態を予測していた準備。
胡散臭いほど爽やかな微笑みに、私はむっつりと言った。
「ありがとうございます」
十部はあろうかという束を持ってぐるりとテーブルを回り、専務らに資料を渡す。
最後に彦谷部長をじっとりと睨みながら資料を渡した時、ノックの音とともにドアが開いた。
「失礼します。社長がお見えです」
そう言って大きくドアを開いたのは、社長秘書の俵さん。
皇丞と同期で、彼同様に異例のスピード出世で社長の第一秘書兼秘書室長になった男性。
驚くと同時に全員が立ち上がる。
入って来た社長が片手を上げて、パタパタと振った。
「座ってください。私のことは気にしないで。おもしろそうな企画があると聞いて、ぜひ聞いてみたいと思ってね。お邪魔します」
そう言われて、はいそうですかなんてわけにはいかない。
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