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平井さんと山倉さんが荷物を持って末席に移動する。私も続く。
俵さんに促されて、社長が窓際を移動する。
「専務も興味を持たれて?」
「ええ、はい」
まさか、娘を贔屓しようと思って来たとは言えまい。
社長には、もう一人の常務が一緒だった。
二人は同期で、現場時代からのよきライバル。
今も、社長に遠慮なしに意見している常務だ。
とはいえ、この常務が社長派というわけではない。
時に敵対することもあるらしい。
その証拠に、常務はかなり不機嫌だ。無理やり連れてこられたのだろうか。
社長が上座の専務の正面に、その隣に常務が座る。それぞれの後ろには、秘書が座った。
常務の秘書は四十代の女性で、俵さんの前任の社長秘書。かなり優秀らしい。
黒のパンツスーツに、きっちりとまとめ上げた髪。ノーフレームの眼鏡は、ザ・秘書。
私は四人にも資料を配った。
「急に、すまないね」
社長はそう言って微笑んだ。
その表情が、皇丞が不意に見せるものとよく似ていて、ドキリとする。
きらりは用意した資料が足りなかったようで、コピーしに出て行った。
皇丞の仕業ね……。
専務たちが来ることも、社長たちが来ることも知っていたのだろう。
もしかしたら、専務たちが来ると知って、社長を呼んだのかもしれない。
いずれにしても、私の緊張レベルは大幅に引き上げられた。
きらりが息を切らして戻ってきて、社長たちに資料を配る。
専務がペットボトルのキャップを回すのを見てハッとした。が、すぐに俵さんともう一人の秘書がそれぞれ、水のペットボトルを社長と常務に渡した。
さすが、準備万端。
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