6.乗っ取り

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 平井さんと山倉さんが荷物を持って末席に移動する。私も続く。  俵さんに促されて、社長が窓際を移動する。 「専務も興味を持たれて?」 「ええ、はい」  まさか、娘を贔屓しようと思って来たとは言えまい。  社長には、もう一人の常務が一緒だった。  二人は同期で、現場時代からのよきライバル。  今も、社長に遠慮なしに意見している常務だ。  とはいえ、この常務が社長派というわけではない。  時に敵対することもあるらしい。  その証拠に、常務はかなり不機嫌だ。無理やり連れてこられたのだろうか。  社長が上座の専務の正面に、その隣に常務が座る。それぞれの後ろには、秘書が座った。  常務の秘書は四十代の女性で、俵さんの前任の社長秘書。かなり優秀らしい。  黒のパンツスーツに、きっちりとまとめ上げた髪。ノーフレームの眼鏡は、ザ・秘書。  私は四人にも資料を配った。 「急に、すまないね」  社長はそう言って微笑んだ。  その表情が、皇丞が不意に見せるものとよく似ていて、ドキリとする。  きらりは用意した資料が足りなかったようで、コピーしに出て行った。  皇丞の仕業ね……。  専務たちが来ることも、社長たちが来ることも知っていたのだろう。  もしかしたら、専務たちが来ると知って、社長を呼んだのかもしれない。  いずれにしても、私の緊張レベルは大幅に引き上げられた。  きらりが息を切らして戻ってきて、社長たちに資料を配る。  専務がペットボトルのキャップを回すのを見てハッとした。が、すぐに俵さんともう一人の秘書がそれぞれ、水のペットボトルを社長と常務に渡した。  さすが、準備万端。
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