6.乗っ取り

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 会議の飲み物を各自で用意するようにと決めたのは、社長。  希望を聞くのは手間だし、自分で好きなものを用意すればいいと言って。  だからなのか、その発言あたりから自動販売機が増えた。  社長も水を口に含む。 「社長。始めてよろしいでしょうか」  皇丞が聞き、社長が頷く。 「では――」  首謀者ともいえる皇丞は、予め用意していただろう台詞をつらつらと言う。  この企画についての説明と、プレゼンすることになった経緯。  そして、企画の発案者である私の発表が促された。  ゆっくり鼻呼吸をして、立ち上がる。  私は、先週と同じことを言うだけだ。 「広報課、木曽根梓です。まず、私がこの『HOME+@』での特集に着目した理由ですが――」  そうだ。  そもそもこの雑誌に目を付けたのは私だ。  きらりは私の企画を乗っ取りたいだけで、この雑誌に思い入れがあるわけではない。  私はこの雑誌の読者に与える影響力や、売上げアップの実績を交えて説明する。  内容は先週と同じだ。  だが、緊張度が違う。  緊張のあまり早口にならないように気を付け、表情が硬くならないように気を付ける。  全身に力が入って、痛い。 「――売り場でも、雑誌に紹介された商品であることをアピールし――」  専務たちからの鋭い視線が頬を射る。  きらりに至っては、失敗しろと念じているだろう。  お返しに、私も念じて差し上げなければ。  言葉じゃなくて舌を噛んでしまえ!  本当ならば今頃は雑誌の担当者と打合せしているはずなのだ。 「――以上です」  一礼し、背筋を伸ばす。 「では、次に林海きらりさん」 「は、い!」  変な間のある返事をして、きらりが父親の後ろを通って前に出る。 
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