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どちらにせよ、最初はにこやかに聞いていた専務も頬がピクピクし始めている。
社長の表情は見えないが、専務と同じか、違えばそれはそれで恐ろしい。
「――以上です」
ため息が聞こえそうなほどか細い声でそう言うと、きらりはそそくさと席に戻り、ペットボトルを握り潰す勢いで水を飲む。
突っ込みどころが色々あり過ぎて、最後まで投げ出さなかったことを褒めてあげたくなる。
「林海さんは、こういった場は初めてですか?」
社長が聞いた。
とても穏やかに。
それに、むしろゾッとしたのは私だけではないだろう。
だが、きらり本人はそうでない。
「はい! そうなんです。ずっと、企画とかさせてもらえなかったんです。雑用ばっかりで!」
さも、やる気はあるのにと言わんばかり。
「そうですか」と社長は、やはり穏やかに言った。
「それについては部長と課長の責任ですね。部下の教育を怠ったのだから」
「え?」
きらりの横で、彦谷部長が青ざめている。
「申し訳ありません」
部長より先にきっぱりとそう言ったのは、皇丞。
「ただね、林海さん。どんな仕事も立派な仕事です。雑用と一言で言ってしまうのはどうだろうね」
「え? あ、はい……」
社長の穏やかさに隠された緊張感を察したのか、単純に諭されて拍子抜けしたのか、気が抜けた返事。
「ただ、企画書はよく書けていますね。気になる点もあるけれど、初めてならとても上手だ」
「ありがとうございます!」
瞳をキラッキラさせるきらりの隣で、宇梶さんが唇を捻ったのが見えた。
彼が協力者……?
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