6.乗っ取り

22/24

25161人が本棚に入れています
本棚に追加
/427ページ
 きらりはスマホからその社長の番号を呼び出しているのか、自分の発言の致命傷に気づかない。 「企画の詳細を話したのですか? 正式にオファーする前に?」 「え? だって――」 「――その内容が他社に伝わる可能性は考えませんでしたか」 「そんなこと――」 「――そんなことじゃないでしょう!」  皇丞の怒声に、思わず肩に力が入る。  静まり返る室内。  専務も、専務派の面々も、フォローの言葉も思いつかないようだ。  外部に漏れた以上、この企画はなしだ。  ちょっと待って、私の企画内容は漏れてない――!? 「林海さん、その社長にはどこまで話したの?」 「え?」 「雑誌名を言った?」 「言って……ません」  隣から皇丞のため息が聞こえた。 「具体的にどう話したんだ」 「雑誌でうちの商品を褒めてくれるだけでいいからって……言いました」 「それだけ?」 「はい……」 「その社長はなんて?」 「いいよ、って」  そんなバカな……。 「林海さん。子供の遊びじゃないんだ。雑誌名もギャラも撮影の日程も知らずに『いいよ』なんて約束のうちにも入らない。しかも、実際にはないプロダクションだ。どういう知り合いか知らないが、騙されたんだよ」 「えっ!? 嘘! だって――」  きらりは口をパクパクさせるばかりで、言葉を継げない。  無言で専務が立ち上がった。 「社長、娘が申し訳ございませんでした」  綺麗に九十度腰を折る。  きらりは信じられないといった表情で父親を見ている。 「言い訳にもなりませんが、初めての企画で確認を怠っていたようです。妊娠中でもあり、情緒も不安定かもしれません」  確かに、言い訳にしてもナイ。
/427ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25161人が本棚に入れています
本棚に追加