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「少し休んで体調を整えた方がいいかもしれませんね」
社長が、安定の穏やかさで言った。
社長の後ろに座っていた俵さんが腰を浮かすと、社長に耳打ちした。
「そろそろお時間です」
「ん、そうか」
「退席の前に私から一言いいですか」
社長の隣でじっと成り行きを見守っていた常務が手を上げた。
「常務、どうぞ」と、皇丞。
「木曽根さん。この企画書はとてもよくできていますね」
急に名前を出されて、思わず身を乗り出して常務に頭を下げる。
「そもそも、この場が必要だったかは甚だ疑問だが、久しぶりに現場の様子が見られて大変良かった。改善点については早急に対処しなければならない。そもそも、今回の企画について林海さんから事前に企画書の提出はあったのか、それ以前に、人の企画に水を差すような真似が同じ課のなかであることが、業務の円滑な進行を妨げているにも関わらず、なぜ彼女の意見を拾い上げたのか、毎回こんなことをしているのですか。彦谷部長?」
「え? いえ、その、今回は私が不在の会議での――」
「――では、東雲課長? 林海さんはきみの直属の部下だろう」
「不徳の致すところです」
「この件をきっかけに、全社員の意識改革を促す必要があるでしょう。私から以上です」
「常務はいつも厳しいね」
社長がそう言いながら立ち上がった。
「だが、事実だ。今後は会議前の企画書提出の徹底と、イレギュラーな提案は弁えて業務を円滑に進行するように。では、私は失礼するよ」
その場の全員が立ち上がり、社長に一礼する。
きらりだけは礼というより項垂れているが。
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