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「木曽根さん」
背後を通る時、社長に呼ばれて向き直る。
「企画の成果を楽しみにしています」
「ありがとうございます」
「今後ともよろしくお願いします」
「え? はい」
何がよろしくなのかわからないまま、私はもう一度頭を下げた。
結局、私の企画案そのままに進めることになった。
出版社との打ち合わせをしつつ、SNSや店頭でのアンケート内容を詰めていくことになった。
社長の言葉を受け、常務からきらりの一か月間の自宅療養が言い渡された。
謹慎処分と言われなかったのは、専務の立場があってだ。
私の企画そのものが白紙とならなくて本当に良かった。
私はホッと胸を撫でおろした。
〈お疲れ。今日は外食して帰ろう〉
皇丞からのメッセージに室内を見る。既に退室していた。
私は皇丞からのメッセージに、猫が短い手を伸ばして頭の上で丸を作っているスタンプで返事をした。
思わず頬が緩む。
私は平井さんと机や椅子の片付けを始める。「林海さんの企画書、宇梶さんが書いたものよね」
平井さんが備品室まで椅子を押しながら言った。
「ですね」
「私、結構前だけど、あの二人が腕組んで歩いてるの見たことあるの」
「え?」
「恋人だったかはわからないけど。宇梶さんもクセがありそうだし、似た者同士なのかもね」
きらりに似た人がそういては堪らない、と思った。
「なんにせよ、梓ちゃんの企画が乗っ取られずに済んで良かったわ」
「はい」
「ま、東雲課長がそんなことはさせなかったでしょうけど」
反応を楽しむように言われ、私は背中がむず痒くなるような恥ずかしさに目を伏せた。
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