7.つながる想い

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7.つながる想い

「梓」  終業時間を少し過ぎて、皇丞が背後から私に耳打ちした。 「ちょっと社長室まで行って来るから、十五分後に通用口前で」  私は振り向かず頷いた。  正面で、平井さんがニヤニヤと笑って見ている。 「平井さん、帰らなくていいんですか」 「帰るわよぉ。可愛い子供が待ってるもの。それに、なんだか今日は旦那にも早く会いたいし」  立ち上がり、バッグを肩に掛けて椅子をしまう。 「仲が良くていいですね」 「いやぁねぇ」と頬に手を当てて大袈裟に首を傾げる。 「仲がいい誰かさんたちに当てられてるんじゃない」 「……お疲れさまでした」 「お疲れさま。梓ちゃんも早く帰って疲れた身体を癒してもらうのよ?」  ゴホンッといかにもわざとな咳払いは、山倉さん。 「そういう話は聞こえないようにしてください」  私より平井さんより年上の山倉さんだが、顔を赤らめて手で口を押えている。 「山倉くん。この程度で赤くなるってホントにアラフォー男子? 心配になるんだけど」 「余計なお世話です!」  平井さんは笑いながらひらひらと手を振って帰っていく。が、ドアを開けてすぐに閉めて戻って来た。 「平井さん?」 「梓ちゃん! 元カレがうろついてる」 「えっ!?」 「山倉くん! ちょっと様子見てよ」 「えっ!? なんで俺が――」 「――男でしょ!」  平井さんの理不尽な言い草に、山倉さんが渋々、嫌々立ち上がる。  そして、静かに開錠し、ゆっくりとドアノブを押し開ける。 「あんたの女のせいで、ムダな事させられたんだけど」  ドアの隙間から聞こえてきたのは、宇梶さんの声。 「は?」  短い一言でも彼だとわかるのが今はすごく嫌だが、確かに直だ。
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