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お互いになんとなく黙り込んで、冷えた風をまともに受けた。そういえばもう11月。寒いはずだ。だから夜空の月が綺麗に見えるんだ。星がいくつもキラキラと揺れている。それを見ていると、人を好きになることが悪いことではないような気がしてきた。
「あのね。僕の好きな人はね、」
小声で囁くと、小早川くんは近くにある僕の顔を見た。しっかり目と目が合う。
「君なんだよ」
カミングアウトだ。
好きという気持ちが溢れて、楽になりたかった。
彼は、呆気にとられるような顔をして、口元に手をやる。「うっそだろー」とか、「まじか」とか言って、酷く混乱しているようだ。
「ごめん」
僕は謝った。言ったあとで無性に申し訳なくてたまらなくなったんだ。
「いや、俺の方こそごめん。ていうか、お前のそういうの知らなくて……」
「いいよ」
「合コンの時、すごい酷いこと言った、ような気が、する……すまない」
「小早川くん……」
「そっか……そうなのか……」
彼は何度も頷くように頭を振った。
「うん」
「俺は……男を好きになる、とか無理だけど、……お前のこと軽蔑したりしてない。ほんと、あの時酷いこと言って悪かった」
やっぱり思ったとおりにカッコイイ人だ。
推しの誠意にやられる。
「いいんだ。別に君とどうかなりたいとか思ってないし、合コンの時は自分もそういうフリをしたから。小早川くんは悪くないよ」
「…………でもお前のその悩み、すんげー大きいな」
「僕から見たら小早川くんのほうがすごい悩みだと思う。家族にバイト代を盗られたの?」
「親父がなっ!」
その話になると、彼はまた顔を赤くして喋りだした。鼻も赤くて。止まらなかった。余程鬱憤が溜まっているらしい。でも話を聞けば聞くほど、僕にも彼の辛さが分かったんだ。その家を早く出て自立するためにも大学に行きたいと思ってる熱意が痛いくらいに伝わってきた。
「璃空、聞いてくれてありがとな。今日のこれってお互いの秘密な」
最後、僕の下の名前を呼んで、にっと笑ってくれる小早川くんはとても素敵で、僕の心がキュンと暖かくなる。彼が本当に幸せになればいいのにな。本気でそう願った。
今夜、締め切っている心の扉を少し開けることに成功したような気がする。僕だけじゃないんだと。みんな何かしら普通を演じてるんだとわかった気がする。
この世は【普通】を欲しているから。
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