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クリスマスツリーは、十一月の末にはリビングの窓側スペースにしっかりと整備された。
ときどき部屋を暗くして、電飾を灯す。いくつか点滅パターンがあって、「どれが一番きれいかな」と言って何度も試した。
そうこうしているうちに、イヴ当日だ。
デートっぽくしたいという雪和の提案で、彼がお店を予約し、そこで待ち合わせることになった。しかしその年の24日は天皇誕生日の振替で、仕事も休みだったので、水希がわざわざ早めに外出するハメになった。
仕方なく、大学時代の友人である朝田あかねに声をかけ、二人で何度か行ったベーカリーレストランでランチ。
「どう、影山くんは」
朝田はニヤニヤしながら聞いた。彼女は雪和と同じ病院に勤めていた頃、水希に彼を紹介した犯人だ。
「もう五年の付き合いになるけど、子どもといるみたいで疲れるときがあるよ、未だに」
「そうなんだ。私には可愛い後輩ってイメージしかないけどなぁ」
「嘘ばっか」
「あはは。でも、水希に合うと思ったのはホントだよ。ああいう情緒のカタマリみたいな男には、ロジックで丸め込めるタイプの人じゃないとね」
「人のダンナに、言ってくれるね」
二人は笑った。水希たちが卒業したのは、経済学部の経済システム学科で、文系と理系の真ん中くらいの学科であった。
「でもこないだ、けっこう大声で言い合ったよ。とてもロジカルとは言えないなあ、私も」
「へえ。彼に大声を出すような一面があるなんて、そっちの方がびっくりだな」
「ケンカじゃなくて、遊びみたいなもんだけど」
「なぁんか、楽しそう」
朝田は少し紅潮した顔で、赤ワインを飲んでいる。水希は、バゲットにブレザオラを乗っけて口に入れた。
「朝田はどう、今の職場」
「何だかんだで、転職してもう六年経つよ。今は部下が三人もいるの」
「おお、すごいね。偉くなったなぁ」
彼女が病院を辞めて、もうそんなに経つのか。
社会人になったばかりの頃、朝田とはたまに会ってはそれぞれの近況を伝えあったり、愚痴を聞き合ったりした時期がある。
確か彼女は労務関係の部署にいて、「病院の職場環境を改善するんだ!」と意気込んでいた。水希も営業企画部の末端で、「私も何か新規事業を開拓するんだ!」と鼻息を荒くしていた頃である。
今は水希もひとつ昇進し、いくつか企画を任されるようになった。考えてみると、鼻息の荒さは当時とあまり変わっていないかもしれない。
「後輩も部下も増えたけど、影山くんみたいな個性はいないね」
「アレがいっぱいいても困る」
妻が言うのは良いのだ。朝田は笑って「そうかもね」と言った。
それから二人でMIZOREというショッピングモールに行って、しばらくぶらぶらした後、シネコンで映画を観た。
まるで学生時代に戻ったみたいで、結果的にこれが、けっこういい時間になった。
午後六時頃、朝田と別れた。
約束の時間はもうすぐなので、水希は車でお店に向かった。
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