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幼い頃に読んだある童話で、「リコリスの根のお酒」という言葉が出てきて、それが何故か深く印象に残っている。
それは確か昆虫たちの物語で、そのお酒を振舞ってくれたのは蜘蛛のお姉さんだった。
中学に上がった頃に、何気なく図書室で見つけた図鑑で調べてみると、リコリスというのは彼岸花を指すものと、ハーブや漢方薬として甘草という名で知られているものと、2種類あることが分かった。
根っこというところから推測すると、童話に出てきたのは後者だろう。彼岸花の根には毒がある。
甘草は、活性酸素の除去や肝機能の改善、アレルギーやストレスの緩和など、多くの効能がある。乾燥させた根っこを煮出して飲んだり、粉末で使用したりする。根っこにはグリチルリチンなどの成分が含まれて、これがとびきり甘いらしい。
しかし、果たしてこれはお酒なのか、と思った。
高校生になってから、またふと興味が蘇って、図鑑には載っていないこともあるだろうと思いインターネットで調べた。
そうすると今度は「パスティス」という言葉が出てきた。
これは20世紀初頭、ニガヨモギを使って作られるアブサンというリキュールが、幻覚症状などの健康被害を理由にフランスやスイスで製造中止となり、その代替として生み出されたお酒だそうだ。語源が「まがい物」であることには、そんな理由がある。
パスティスには、リコリスを使うことが法律で定められた。
飲み方は、水割りだけでなく、パイナップルやクランベリーのジュース、あるいはアーモンドシロップなどで割って、カクテルとして飲むことも多いという。
今度こそ、蜘蛛のお姉さんが勧めていた「リコリスの根のお酒」の正体は分かった。
安納水希は、長く患った病が寛解したような気持ちで、気分が良かった。
大人になったら、そのカクテルを飲んでみたい。
そんな小さな夢だけを、胸に残して。
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