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「いやぁ、やっぱ彼女ができると心に余裕ができるんだなあ」
何杯目かの酒に顔を赤くしながら、目の前にいる彼は呟いた。
きっと思い浮かべているのは最近できた新しい彼女。
小柄でふっくらとした体つきに、きれいな茶色のロングヘア―。
くりっとした瞳が印象的で、いつでも優しくふわりと笑う。
自分とは正反対な彼女。
「なに、もう酔ったん?惚気ならほかでやってや」
「冷たいなぁ…。そんなこと言っていつも付き合ってくれるくせに」
そう言われると何も言い返せない。
酒が入れば聞かされるのはいつも同じ話なのに、結局彼の誘いを断ることはできない。
「そんなに好きなんやったら彼女と酒飲んだらええやん」
「だから、あいつ酒呑めないんだって。それに、俺はお前と呑みたいの」
ほら、また同じ。
何度聞いても同じ答えが返ってくる。
「よく言うわ、付き合い長いから呼びやすいだけやろ」
「はは、ばれたか。でもお前は大事な存在だからよ、そんなに拗ねんなって」
『大事な存在』
この言葉にいつまでも捕らわれてきた。
彼とは高校時代からの長い付き合い。
だから何でも知っている。
映画館では必ずキャラメルポップコーンを頼むし、本は表紙で買うタイプ。
人見知りが強い癖して、大切なものは絶対に守り抜く。
そんな彼が好きで、好きで、大好きで…。
彼の隣にいるのが当たり前だったから、いざその場所が奪われた時、
自分が惨めでたまらなかった。
「でも隣にはいさせてくれないやん…」
「ん?なんか言った?」
「何でもないわ。もう呑みすぎやし、そろそろ帰ろうや」
「んー、そうだな。また飯食いに行こうな」
「はいはい」
きっと、抱え続けたこの気持ちに、彼は一生気づかない。
そんなことはわかっているけど、どうしても彼から離れられない。
結局彼に縋りつく醜い自分は、『大事な存在』を捨てられない。
だからこの先も永遠に、彼の『親友』を演じている。
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