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愛される幸せ(私は、蒼を選ぶ)
私は、閉まりそうな電車のドアをすり抜け、表参道駅で電車を降りた。私が降りると同時にドアが閉まり、走り出した。
私は、振り返り電車を見送った。
(これが、私の答え)
電車が見えなくなるまで見送ると、私は駅の時計を見上げた。針はすでに19時をさしていた。私は、改札に向かって慌てて歩きだした。
心臓の鼓動はどんどん早くなっていった。これは、急いで歩いているからだろうか。それとも。そんな事を考えながら改札に向かうと、改札前には、蒼が立っていた。
「澪ちゃん」
蒼は、私を見つけると嬉しそうに手を振ってくれた。
「蒼!」
蒼のいつものあの優しい笑顔に、私は、やっぱり彼のそばにいたいと改めて感じた。そして、さっきまで揺れ動いていた心から目をそらし、改札を抜け、蒼の元へと急いだ。
「ごめん、蒼。待たせちゃったよね?」
「そんな事ないよ」
「本当に?」
「本当。さあ、行こう。本当に綺麗だから、澪ちゃんきっとビックリするよ」
「そんなに?すごい楽しみ」
蒼は、私の手を掴むと引っ張るように歩き出した。
階段を上がり、外に出ると、そこは、光に溢れていた。
「本当だ。すごく綺麗だね」
蒼は、私に向かって笑う。
「凄く綺麗でしょ」
光はどこまでも続き、その美しさに私は目を奪われた。
そして、繋いだ蒼の手のぬくもりが、さっきまでこわばっていた私の心を温め、ほぐしていくのを感じた。それはとても心地よくて、私は、自分の選んだ答えが正しかったのだと素直に思った。
「澪ちゃん、寒くない?」
蒼が心配そうに聞いてきた。
「ありがとう。大丈夫だよ」
「じゃあ、イルミネーションをいっぱい楽しもうね。その後は、ご飯食べに行こうか」
「うん」
「何がいいかな~」
イルミネーションからすっかり食べ物に思考を奪われている蒼の様子に私は少しだけ笑い、視線をもらった街路樹へと向けた。綺麗に飾り付けられた木々はまぶしいくらいに輝いて見えた。
「本当に綺麗」
そう呟いた時に、頭に浮かんできた景色の中にいたのは、大翔だった。
彼は、一人であのバーで飲んでいるのだろうか。私は、彼からのメッセージに一切返信をしなかった。行かないとの言葉さえ、返していなかった。
(私は、一体何を考えているんだろう)
私は、フッと息を吐いた。
イルミネーションのまぶしい光に私は目を細める。
「どうかした?」
蒼は、無言になっている私の顔を覗き込んだ。
(大丈夫。私は、きっと幸せになれる)
「蒼、大好きだよ」
蒼は、驚いた顔をすると、私を強く抱き締める。
「俺も澪ちゃんが大好きだよ」
私は、蒼の言葉を聞きながら、腕の中で涙をそっと流す。
今感じてるこの痛みもきっといつかは消えるだろう。だって、こんなにこの腕の中は温かくて心地よいのだから。
(さようなら、かつて愛した人。私は、幸せになります)
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