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あ、卵きらしてたから買っとこう。特売セールで112円って安いぞ、これは。 駅前のスーパーで卵のパックを手に取る。 ひとり暮らしも3年目になるといよいよ所帯じみてくる。 書店勤務だから残業にはあまり縁がないし、そのぶん給料も高くはない。 自炊する時間はまあまあ、ある。 連休2日間の3食ぜんぶ家で作ったこともあるんだぜ。 誰かのため、ならまだしも。 僕のとなりにも部屋にも、今のところ誰もいない。 ペットも飼えないし、飼ったところで世話でをする時間はないのが現状だ。 職場と家とのあいだを、電車およびバスを使って往復する。週に何回かスーパーに買い出し。たまにショッピングモールに行く。よその書店を参考がてらこっそり観察。 エコバッグを手早く開いて買い物を詰める。 よくある雑誌の付録。出版社の営業さんがサンプルをくれて、気に入ったからよく使ってる。 おっと、急がないとバスに乗り遅れる。 駅前のターミナルから外れた、少し遠い通り沿いのバス停まで、たいていいつも小走りだ。 座席に腰を下ろすほどでもない時間と距離、10分前後バスに揺られる。 降りたバス停からマンションまで、徒歩で5分。あまりいい立地じゃない。 これが僕の生活だ。 オートロックを解除して、階段で3階までのぼる。エレベーターは、待つのがもどかしくて使ったことはない。 ………って、あれ? 部屋を間違えたのかと思った。 人が倒れているように見える。 僕の部屋、301号室の真ん前。 今は眼鏡を掛けているから、見間違いじゃあ、ない。 男性。たぶん。 黒いTシャツとチノパン、やや季節外れのサンダルは片方が脱げてしまって素足が露出している。 「…あの、大丈夫ですか?」 これでは僕が部屋に入れない。 おそるおそる近寄って屈み込む。 長めの、色素の薄い茶髪に隠れて顔はよく見えない。 そのぶん、まじまじとのぞき込んで見つめてしまう。 まぶたをぎゅっと閉じて、苦しげに眉をひそめている。 救急車を呼んだ方がいいのだろうか? 110番に電話したことなんてない。 めったに呼んではいけないものなんじゃないのか。 それともただの、早い時刻のよっぱらい? 管理会社に連絡?? こんなときにかぎって、他の部屋の住人は通りかからない。 血が出たり、痛いとうめいていたりはしない。 けれどこの人は苦しそうにしている。 僕はにわかに緊張して、かばんを探る。携帯電話はなかなか見つからない。僕はにわかに焦り出す。 「………む、い」 「え、何ですか!?」 まさか僕がこの男の人の遺言を聞くことになったりして………嫌だよ! 「…ねむ………い、」 ーーーえぇッ!?
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