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「君なら、わかってくれるはずだ。廉のことを思ってくれている君ならば。土下座しろと言うならする」 この人にそんなことをして欲しいわけではない。 それなのに村西さんは、「お願いします」と言って深々と頭を下げた。 そのままの姿勢で、動こうとしない。 僕はごくわずかだけ頭を下げ、鍵を開けて中に入ろうとする。視界の端に見えた村西さんは微動だにしなかった。 「人に話すつもりはありません。写真なども、特に撮ってはいません。…どんなかたちであれ、」 迷惑をかけるという言葉ではまだ足りないと思った。 「…どんなであれ、廉…北村さんの足枷になることをするつもりはないですから」 それが村西さん、あるいは廉の、欲しい言葉のはずだし、僕が伝えたいこともそれだった。 とても喉が乾いた。さほど話をしてはいないのに。 反論はできなかった。 反論って、何をだ? 村西さんの言っていたことは一から十まで正論だったし、僕を傷付けたくて言っているのではないこともよくわかった。わかってしまった。 彼は僕を責めなかった。 ただ、廉のために。自分が悪者になってでも。彼は年下の僕に頭を下げさえした。 ジャケットを脱ぎ捨てて、ひどく乱暴にネクタイを緩めた。 冷蔵庫を開ける。水が飲みたい。 扉のポケットに、卵がぽつんとひとつ、取り残されていた。 この前、すべて使い切ったと思っていたのに。 卵は賞味期限が過ぎても加熱すれば食べられるけれど、さすがに時間が経ちすぎている。 取ろうとすると、手がすべってこぼれ落ちた。 床にくしゃり、とほとんど音もなく、割れるというより潰れた。
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