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「Brilliant」を縛っているビニール紐をハサミで2箇所、切る。 付録は今度実家に持って行く。 僕は妹思いなだけの書店員なんだ、と自分に言い聞かせる。 決して、彼のことをもっとよく知りたいからではない。 あの憂いを帯びた無防備さと、どう見ても疲れ果てていた意味を知りたいからでは…ない。 雑誌を開くと目次のすぐあとに写真が見開きで2ページ、あった。 歩く姿を横からロングショットで捉えた1枚。 やっぱり背、高い。手足長い。もしどこかで会ったら、顔よりも背格好でそうと気付きそうだ。それがモデルってやつなのか、と思う。 もう1ページは、視線を外してすこし崩れた表情のカット。 こんな顔もするんだ。 そのあとはインタビューが1ページ分。 今月公開になるサスペンス映画では、「重要な役どころ」を演じるらしい。監督とよく話し合いました、と言っている。 ふーん、そうなんだ。 海外へ演技の勉強しに行きたいと思っていること。 へえー。 犬と猫なら、犬の方が好きだそうだ。理由は、実家でラブラドールレトリバーを飼っているから。 僕は…僕も犬かな。 だし巻き卵を行儀悪く箸で突きながら、初めから終わりまで読んでしまった。 これまでにテレビや映画で見かけた記憶はなかった。載っているごく短い経歴を読むかぎり、まだ主演をつとめたことはないようだ。 それにしても、こういう仕事も大変なんだろうなあ。人に見られる仕事。気が抜けない。 働き始めてからは、表に見える部分よりも裏側が気になるようになってきた。 書店っていうのも、結構、表と裏があるから。 本好きじゃないとつとまらないかもしれないけれど、それだけではとてもやっていけない、体力仕事だという側面も大きい。 雑誌をぱらぱらとめくりながら、だし巻き卵をひとくち、口に入れる。 正直、他のページには一切興味がもてない。写真はきれいだと思うけれど。冬に食べたいお洒落なアイスクリームとかコートの下に着るノースリーブとか。 それで僕は、また彼、北村廉というひとについて考える。 モデル・俳優業についてと言うより、昨日の彼について。 仕事が大変だったのかな。それで、倒れていたのかも。 僕は彼を助けたかったのかもしれない。 あんな姿を見たら、誰だって。 元気になっていたらいいな、と思った。 雑誌で華やかな姿を見ても、結局、感じたのはそんな思いだった。 自作のだし巻き卵の味はまあ、普通。いつもと変わらない味。
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