さよならは 言わないで

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 記入例として神崎美春の名前がすでに書かれている用意周到さだ。  なかなかの達筆に思わず俺は見とれた。 「そこ、順番ぬかしはだめですよ。美春の眼はごまかせません。諒ちゃんの中に入っていただく順番は早い者勝ちではなく、抽選で決めますからあわてないでくださいね。とにかく、美春の諒ちゃんを困らせる人はメッですから、大人しくしていてくださいませ」  どこから出したのか首元にスカーフがまかれていて、見た目は女子高生というよりバスガイドさんに、いつの間にか変わっていた。  美春は外した制服のネクタイを左のひとさし指でくるくる回している。 「若くてキュートな女子高生が案内係なんて、めっちゃくちゃラッキーなんですから、お茶でも飲みながらゆっくり待ちましょうね」  そういう美春の手にはすでに、お茶の入ったうさぎ柄のティーカップが持たれている。  幼稚園だったか小学校だったか忘れたが、誕生日に俺がプレゼントしたやつだ。
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