プロローグ

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プロローグ

――は、必然的に視界の中に飛び込んできた。 彼女はただ、前日の放課後に置き忘れてしまったノートを取りに、朝一番の図書室にやってきただけなのに。 誰もいないと思って勢いよく開けた扉の向こう、その窓際の机に頬杖をついて座っていた彼は、 「ふぅ……」 とても切なげな溜息をついていた。 彼女からは彼の横顔しか見えなかったが、その表情はあまりにも物憂げで苦しげで、それでいてとても美しくて、 (……綺麗……) 男性に対してこの表現はどうかと思ったが、彼女はそう思わずにはいられなかった。 その彼が、黙ったまま首だけで静かにこちらを振り向く。 窓から射す朝日に照らされた髪は、墨を流したかのように艶やかな黒色をしていて、そのサラサラの前髪の隙間から覗くのは、一切の感情が込められていない、氷のように冷たい印象を抱く黒目がちの瞳。 人間離れをした美しい容姿を持つ彼は、彼女と目があった瞬間、驚いたように目を見開いた。 氷を連想させる瞳に少しだけ光が宿って、キラキラと(きら)めいて見える。 その表情のまま、彼はゆっくりと口を開き―― 「お前……名前は?」 少し低めの、耳に心地良く響く声で、そう訊ねてきた。 きっとこれが、この出会いが、 目立たず大人しく平穏に暮らしたかった彼女にとっての、最低最悪の悪夢の始まり――
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