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 結菜が初めて僕の部屋に来た。二人っきり。少し緊張する。 「へー、結構きれいにしてるね」 「結菜が来るからって、一生懸命掃除したんだ。おかげでキレイになったよ」 「ひとり暮らしかあ。私も一回はしてみたい。憧れるけど、まだ仕事に慣れるのに精一杯だからな」 「何飲む?」 「じゃあコーヒーいただきます」  僕はコーヒー豆を()いて、お湯を注ぐ。コーヒーカップはこの日のために用意てあった。 「ありがとう。いい香り。やっぱり違うね」 「だろ? 僕はもうインスタント飲めないよ。はい、ケーキ」  僕はコーヒーカップとお揃いのケーキ皿にのせたショートケーキをテーブルの上に置いた。 「これ、コーヒーカップとお揃い? あ、ウエッジウッド! 同じだ! 私も使ってる。趣味が合うね」 「そうだね。なんだか嬉しいよ。ウエッジウッド気に入ってるんだ。僕はこう見えて食器にはこだわりがあるから」  やっぱり結菜は食器のブランドにまで気が回る。それも、同じウエッジウッドを使っていたなんて…。こういうところで僕たちセンスが合うことがわかる。 「へー、知らなかった。幼なじみなのにあまりよくわかってないみたい」 「言われてみれば、くだらないことばっかり話して、肝心なことあまり話してないね」 「ほんと」  ハハハと笑い合った。  スナックやクッキーの袋も開けて頬張りながら、近況報告をしていると、結菜が突然黙り込んだ。 「どうした?」 「今日の相談なんだけど」  結菜は一呼吸置いた。 「…奏太が浮気したかもしれない」 「奏太が浮気?」 「まだ疑惑だけど」 「そんなそんな。まあ、商社マンだからね、モテモテの職業だよ。そこは心得ておいた方がいいよ。奏太の場合、学生の頃からモテてたから今はもっとモテてるだろう。でも浮気なんてするかな」 「まだ決定的な証拠はつかんでないけど、限りなく黒に近いの。休日に街で女の人と一緒に歩いていたのを見た友達が教えてくれて。その夜、奏太に問い(ただ)したら、偶然会って立ち話してただけだって」  やれやれ余計なことする友達だな、と内心思った。 「一緒に歩いてただけだよ。あいつ、女友達多いから、誤解されやすいとこあるよ」 「それに、この前なんて、大学の仲間とキャンプに行ったんだけど、後から女性が数人混じってたって聞いてショックだった」 「うーん」 「でね。その女の人たちは飛び入り参加だから奏太は直前まで知らなかったって言うの。だから、『女性がいるキャンプは絶対やめて』って言ってやったよ」  僕は(うなず)きながら答えた。 「そうか。たとえグループでも、異性がいる泊まりはやだな」 「でしょ? でね、『結菜が嫌ならやめるよ。でも、もし行かなくちゃならない時は結菜も連れてく』て、約束を取り付けた」 「それは良かった。今度連れてってくれる時には、皆に紹介してくれるよ」 「まあね。そうすれば安心よね」 「まあ、いずれにせよ考えすぎだって」 「確かにそう思う。奏太はモテるから心配になってるだけなのかも」 「それは結菜も同じだから、お互い様だと思うよ」  結菜はうつむき、そしておもむろに顔を上げた。 「私、たまに考えるの」 「え?」 「私ね、あの時、女心がわかる奏太じゃなくて、女心がわからないけど純粋な洋太を選んでたら…って」  結菜が僕の目をじっと見つめた。  僕もつられて見つめ返した。  そして、僕たちはしばらくそのまま見つめ合った…  
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