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僕は駅の本屋で立ち読みをして、時間をつぶすのが好きだ。
「洋太」
どっかで聞いた声。
振り返る。
結、菜?
間近で見ると、びっくりするぐらい変わった、キレイになった。
余分な脂肪がとれて、スラッとして、もともと整っていた顔のパーツがはっきりしている。肌はこう、透明感が出て…
「お、お久しぶり。結菜、元気だった?」
僕の声がうわずった。
「うん」
「制服、似合うよ」
「ありがとう。この制服が好きで着たかったから」
「志望動機にしてたね」
「あ、覚えててくれたんだ」
「もちろん」
「元気そうで良かった。何の本を読んでいるの?」
「あ、これ? 山の本」
「洋太は山が好きだよねー。私はもう自然から離れちゃった」
「そっかあ…」
一緒に登らない?の一言が言えたらなあ…どうせ断られるけど。
「じゃ、友達が待ってるから」
「じゃあ、また」
結菜はバイバイと手を振った後、身を翻した。セミロングのヘアとプリーツスカートが一瞬フワッと浮いた。
すべてがスローモーション。
彼女の姿が雑踏に消えるまで、僕はずっと目が離せなかった。
「目で追ってるぞ」
僕はハッとした。
「なんだ木村かあ。びっくりした」
木村とは高校が違うが、路線が同じなのでたまに出会う。こいつはいつも見られたくない時に現れる。
「『なんだ』とはなんだ。驚かせたのはすまなかったけど、ま、お邪魔かなと思って」
木村が探るような目で見てくる。
「なんだ、に悪い意味はないよ。それにお邪魔って…、ただの立ち話だ」
「ダダ漏れ」
「え?何が」
「いや、ね。あいつ、キレイになったな」
「うん、まあ」
「わかるよ、その気持ち」
「は?ただの幼なじみだよ」
「まあな。でも今はもはや高嶺の花だ」
「高嶺の花…」
「幼なじみじゃなかったら、話かけてくれないかもよ」
「確かにそうかもな」
「おまえも、それ相応の相手を探した方がいいと思うけど」
「それ相応の相手?」
「俺だって一応いるんだぞ」
「え、もしかして、おまえに彼女?」
僕は軽くショックを受けた。
「まあな、普通に探せば見つかるって」
「ふうん。別に彼女欲しくないし」
僕は視線を宙に浮かせた。
「そうか? とにかく、あいつは諦めた方がいいぜ。ライバルが多いだろうし」
「だろうな」
「ハハ、認めたな。じゃ、俺、彼女と待ち合わせしてっから」
「そんなんじゃないって。…あー、行っちゃった」
ダダ漏れか。
確かに僕の気持ち、今までとは違うってことは今日さすがにわかった。
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