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LINK17 海水浴
8月も終りにさしかかる。
さすがにピーク時よりは海水浴客は少なくなったようだ。
それでも今年の残暑は厳しい。
砂浜のそこかしこにパラソルが立っている。
「ちょっと待っててね! 受付して諸々借りてくるから!」
何も知らない真心と俺をポツン砂浜に残し、太郎君は海の家へ走っていった。
「さっきから思っていたのだけど、ここは全部砂場ですか?」
真心がはじめてのビーチに驚いている。
「お姉ちゃん、砂浜だけどむやみにサンダル脱いだらダメだよ! 凄く暑いから!」
両手いっぱいにパラソルや浮き輪を抱えながら慌てて太郎君がアドバイスをしてくれた。
俺たちは波打ち際近くにパラソルを設置した。
いや、ほぼ太郎君ひとりでさっさと設置作業を終わらせてしまった。
俺と真心がしたことと言えば、重石を乗せるまでシートが風で飛ばされないように押さえていることだけだった。
俺はレジャーシートに腰掛ける。
そして太郎君に真心のエスコートを任せた。
濡れた砂浜を一歩一歩用心深く、でも興味津々に歩く真心。
波が足元にかかると波はそのまま砂を置いていく。
その感触にこわばった顔が少しずつ笑顔になっていく。
手を取られ波が膝元までかかるところまで連れていかれる。
寄せる波は足を押し、そして引く波は足を引っ張る。
その感触の全て感じている。
そして俺の方を振り返ると「これが波なんだね!」とうれしそうに叫んだ。
その顔を見るや、俺は腰を上げて、真心の近くに行き、彼女の手を取った。
はじけた波飛沫が、真心の口に飛び込み、その海水の塩っ辛さにびっくりする。
「この海にはどれだけの塩が入ってるのかな?」
そんな言葉を聞くと俺と太郎君は大笑いした。
真心は少しふくれ、やがて自分の言葉を思い返すと「ぷっ」と噴き出した。
・・・・・
俺はパラソルの下に戻ったが、太郎君と真心はしばらく遊んでいた。
やがて遊び疲れた真心は砂に膝をつきながらパラソルの元までやってきた。
「楽しかったぁ。私も少し休むね」
パラソルの下で2人きり。
俺も目をつむり真心と一緒に波の音を聞いていた。
「席空いたよー!」
海の家のから太郎君の大きな声がきこえると、真心と声をだして笑い合った。
・・・・
海の家の座敷に座る。
蚊取り線香に扇風機。
なかなかの『日本の夏』って感じだ。
テーブルには俺の『ラーメン』、真心の『カレーライス』、太郎君の『ロコモコ』が並んでいる。
「太郎君、話が違うんじゃない? 海の家では『ラーメン』か『カレー』だって....」
「それは初心者だよ。僕みたいに旅慣れた奴には『ロコモコ』こそふさわしい」
『まぁ、いいか』とラーメンをすすると、確かに失われた塩分を補うかのようにラーメンが胃袋に気持ちよく収まっていく。
「真心、カレーライス知ってる?」
「カレーライスは知ってるよ。ありがと。凄くおいしいよ」
確かにおいしそうに食べるなぁ。
これが他人の食べる料理がおいしそうに見えるという現象なのか。
メニューを見ると『ラーメン&半カレーライス』の文字を見つける。
失敗した! それにしておけばよかった....
・・・・・
「真心、俺は少し昼寝するから、あと1時間くらい遊ぶんだったら行っておいで」
「ううん。私もここに居る」
海の家の大広間でそよ風の中、少し眠りについた。
近くに真心の気配があるだけで、なぜか安心して眠ることが出来る。
・・・・・
どれくらい眠っていたのだろうか。
「なんか変だ! 月人さん! 『燐炎』が.... もう私には抑えられない!」
突然、真心の焦った声に起こされた。
すると真心の瞼が開き青白い瞳をのぞかせた。
「太郎が危ない。沖合いを見ろ」
「くそ!」
その一言で事の状況が把握できた。
俺は海辺まで走っていった。
どこかわからず焦る俺の横に素足の『燐炎』が近づいてきた。
『あそこだ』
指をさす先に小さく人影のようなものが見える。
どうしたらいいんだ!?
太郎はどんどん沖に流されているようだった。
泳いでいったとしても間に合わない。
すぐに助ける方法が思いつかなかった。
すると『燐炎』がおもむろに唇を重ねた。
ま、真心と接吻....
その瞬間、俺の視界が切り替わる。
大海原に何かをとらえると、急激にズーム開始しはじめる。
海上にいる太郎君と隣に小さな女の子だ。
そして2つの長い数字の列が現れると海水浴場の水面に浮かぶ救助用ドローンが一斉に海面を疾走し始めた。
ドローンは統率の取れた動きで瞬く間に太郎君ともうひとり女の子を取り囲み、彼らを浜辺まで運んできた。
離岸流で流されている女の子を見つけた太郎君が救助に行きそのまま2人流されてしまったらしい。
無事、2人が助かってよかった。
しかし....あれは何だったのだろうか。
目の前に突如と見えた映像と2つの数字。
あれはまるでPCで見るGoogleアースの映像そのものだった。
『燐炎』が素足で砂浜を歩いたため、真心は足の裏に軽いやけどを負ってしまった。
あの時、真心は彼女に支配されていた。
やはり早く斎木博士を見つけ出さなくてはならない。
そうしなくてはいつか完全に真心は彼女の支配下にされてしまうかもしれない。
だが、なぜ『燐炎』は人間を助けるようなことをしたのだろうか....
それだけが俺の心に引っかかっていた。
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