4人が本棚に入れています
本棚に追加
LINK18 それぞれの旅
「太郎君、大丈夫かい?」
おぼれかけた太郎君の検診が終わり、海の家で少し休憩をした。
「俺、どうしても助けなきゃって夢中になって.... 妹と同い年くらいのあの子が流されてるの見たら、海に飛び込んでいた」
「妹さんがいるの?」
真心がたずねると太郎君は旅の理由を話し始めた。
「妹の琴葉は病気なんだ。あいつはずっと無菌室からでることができない。」
その言葉に真心はわずかに反応した。
太郎君は続けた。
「俺がしてあげられるのは、こうして旅をして、このカメラで綺麗な景色や出会った人を撮って、琴葉に見せてあげることだけ。でも、あいつは俺が撮ってきた写真を楽しみにしてるんだ」
「病気は治らないの?」
デリケートな質問だったが盲目の真心が言うには問題がなかった。
「臓器の移植手術ができれば、あいつは元気になるのかも。だけど適合する臓器見つかってもすぐに違うところに持っていかれちまう。きっと金持ち連中が持って行っちまうんだ。もう3回目だ。くそ!」
「金持ち連中が持って行ったとは限らないだろう?」
「ううん。金が足りない分補欠みたいな扱いなんだ。それでもいいからと何とか父さんがお願いしたんだ....ごめん。なんか恥をさらしちゃったね」
俺たちは着替え終わるとそれぞれの旅をつづける。
俺と真心は木曽路へ。
そして太郎君は写真を撮る旅を続ける。
「ねぇ、太郎君、最後に一緒に写真を撮ろうよ」
カメラを嫌う真心がそんなことを言うなんて。
「これ僕のメアドだよ。でも月人さん達はモバイルを使わないんだね」
「まぁ、いろいろあってな」
「じゃあね。月人兄ちゃん、真心お姉ちゃんをしっかり頼むよ」
月人兄ちゃんか....生意気な奴だ。
太郎君は見送る俺たちが見えなくなるまで何度も振り返り下田方面へランドナーを走らせて言った。
「さぁ、真心、俺たちも木曽路へ行こう」
「うん」
伊豆の夕日は赤くなり始めていた。
・・・・・・・・
・・
その後、太郎君の妹、琴葉ちゃんに適合する臓器情報は世界各国のあらゆる情報機関をとおして検索され見つけ出された。
そして医療システムの臓器優先順位は1番になっていた。
その扱いはトップシークレットとされ、誰にも何の追及もされずに琴葉ちゃんに移植された。
最初のコメントを投稿しよう!