LINK19 アルパカのナシゴレン

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LINK19 アルパカのナシゴレン

西伊豆の海岸線を車は走る。 空は茜色に変わりラジオから流れるのは夏の終わりを告げている曲だった。 その曲が楽しかったひと時、一期一会の出会いを思い出させ、やたらとノスタルジックな気持ちにさせる。 俺は12年の間、こんな気持ちになることなどあっただろうか。 ましてや真心は.... と顔を見ると、かなり疲れたのか寝息を立てながら眠っていた。 少し開けていた窓を閉め、車は土肥・船原新道へ入っていく。 有料道路への登っていく車のバックミラーに西伊豆の海が遠ざかっていくのが見えた。 長い土肥・船原トンネルを抜け、車は伊豆縦貫道、そして富士五湖方面に向かっていく。 車の中であの海水浴場での感覚を思い出す。 あの一瞬、俺の身体全体がセンサーのようになり広範囲にモノや人の位置関係を把握した。 そして間違いなくアレは俺の視界ではなかった。 真心・・いや『燐炎』の視界だった事は間違いない。 俺は、あの時、太郎君を助けたいと願っただけだ。 そこまで思い返すと真心の柔らかい唇の感触も思い出した。 ったく.... 何考えてるんだ俺は.... 考えを正すと車のアクセルを踏んだ。 富士山のわきを通り富士五湖周辺に来た頃には時間は18時をまわっていた。 今日はここで宿をとろう。 あとは明日だ。 少し寝返りを打つ真心の姿を見てそう決める。 「おい、真心。起きろ」 「....ごめんなさい。ずっと寝ていて」 「いいよ。それよりもう6:30だ。どこかで飯を食べよう」 「うん。なんかすごくお腹減っちゃった」 高速を降りると、月夜に誘われて河口湖のほとりに車を停めた。 そこに『アルパカ』という店があった。 「ここでいいか?」 「うん。何でもいいよ。お腹減ったから」 そこのメニューはインドネシア・バリ料理が中心だ。 俺は「ナシゴレン」を頼むと、真心は「全く知らないから同じでいい」と言う。 「ナシゴレンって梨の実とか入った料理なの?」 真心のお(とぼ)けには笑ってしまいそうになるが、でも実は彼女は本当に何も知らないのだ。 「『ナシゴレン』っていうのはバリ料理のひとつで、チャーハンって知ってるだろう? バリのチャーハンって感じだ。上に目玉焼きが乗っていて横に揚げせんべいが乗っている料理だ」 「そうなんだ。楽しみ」 このひとつひとつが新鮮なのだろう。 真心は「おいしい」と喜んで食べていた。 特に辛みのあるソースを少し掛けて食べるのが気に入ったようだ。 「月人さん、私、役立たずだったね」 そういうと真心の顔は沈んだ。 多分、海水浴場での出来事だろう。 「私なんかより、もしかしたら『燐.. 「やめるんだ、真心。そんなわけない 絶対に」 「でも....」 「俺はそんな風に思わない。例え、真心がそう思ったとしても、俺は絶対にそう思わない。俺には..俺には真心が大切な友人だからだ」 「ごめん」 「さあ、食べ終わったら、宿を探そう。どうせなら温泉付きがいいな。ちょっと金出して貸切温泉風呂がある部屋にしようか?」 店の階段を降りると、月に照らされた河口湖が見える。 「(『友人』か.... 違和感あるけど、まぁ『友人』だろうな....)」 自分が言った言葉に後悔とは違うものを感じた。 ** 部屋風呂が充実していそうな宿か.... 河口湖の湖畔を見渡してひときわ大きい『河口湖グランドホテル』をみつけると、そこに宿をとった。 当然、俺たちの監視をつづける中尾もそこに宿をとるに違いないだろう。
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