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LINK23 太陽に染まる宿場街
「晴広和尚さま、お父さんとお母さんがここに来てよく行った場所とかないのでしょうか?」
「よく行った場所ですか?ここは狭い宿場街です。何度も行くような場所というものはそうはありません。ただ、この街を少し上がった場所に『二百地蔵尊』という場所があります。あの場所の静かな空間が好きと真莉愛さんが語っていたのを覚えておりますよ」
・・
・・・・・・
真心はそこに行ってみたいと言った。
それは脇道から「二百地蔵尊」と書かれた小さな木の看板を目印に石階段を登った先にあった。
石階段から続く杉林を抜けて行くとそこには静かな空間が広がっていた。
社の中には数体、そしてその周りに数えきれないほどの地蔵が並べられている。
まるで特別な空間に迷い込んだような感覚だった。
多くの地蔵を正面にたたずむ真心。
この空間を目の見えない真心にはどのように感じているのだろうか。
「真心、そろそろ降り....」
そこにいたのは『燐炎』だった。
俺がその瞳に気が付いたためだろうか、『燐炎』は何も言わずに瞼を降ろした。
「ま、真心、どうだった?」
「どうだった?う~ん。すごく静かで、でもいろいろな自然の音が聞こえたよ」
突然、ひぐらしが鳴き始めた。
俺は一瞬背中に冷たいものを感じてしまった。
俺たちは何に突き動かされているのだろう?
斜光のかかる街道は、また深い趣を醸し出している。
それはこの地の夕方から夜になる時間の短さゆえだろうか?
長くなる影を追うように街を散策すると、前から山岡夫妻が歩いてきた。
聖子さんが「真心ちゃん!」と大きな声で両手を振った。
博さんは車イスを使わずに聖子さんの後ろに立っている。
真心も俺の裾から手を放し大きく手を振った。
手から滑り落ちた白杖が乾いた音を鳴らした。
青白く開いた真心の瞳。
聞こえたのは真心の叫び声だ。
「おじさん、危ない!!」
博さんの元に走る真心。
暴走する大きな外車からブレーキ音と土煙が巻き上がる。
真心は博さんと体を入れ替えた。
車体側面が真心と博さんを突き飛ばした。
車はそのまま一軒の重要文化財の家を破壊しながら停車。
真心は博さんに覆いかぶさったまま動かない。
「なんだっていうんだよ....くそったれ! このクソが!!」
「落ち着け、月人。落ち着くんだ。大丈夫だ」
後ろから俺の肩に手を置くと中尾は真心の元へ走り寄る。
「月人! 何やっている! 手伝え!」
俺も真心の元へ力なく近づく。
「....月人さん ....大丈夫かな..博さん....は..?」
そういうと真心は気を失った。
「真心、真心! 中尾さん、俺どうしたらいい?」
隣では聖子さんも必死に博さんに声をかけている。
事故の騒ぎに気が付いた近くの家から毛布が届けられ、やがて到着した救急車で2人は運ばれていった。
警察に連れていかれる男は贄川関所でもめていた男だった。
あの男の顔を俺は頭にインプットしていた。
「やめろ。月人。あいつ個人に仕返ししても何も解決はしない。お前たちの素性は俺が守ってやる。だから行くぞ」
そうだ、病院で身元確認されれば真心の素性が割れてしまい、また再び犯罪組織に狙われる可能性もある。
そして国土衛星省と厚生環境省にも危険人物として管理対象とされてしまうだろう。
いま、真心が拘束されるわけにはいかない。
真心が『燐炎』に支配されるのを防がなければならない。
それにもしも彼女がこの世に解き放たれれば何が起きるかわからないのだから。
中尾さんは地元警察のパトカー1台を分捕ると俺を乗せ救急車の後を付いていく。
「月人、お前、ついに俺の前で呼んだな、あの娘の名前を。『真心』と呼んだな」
「 ......」
「まぁ、いい.... 俺はやるべきことをやるだけだ」
「俺たち、まだ東京には戻りませんよ」
「ああ、わかってる。 わかってるよ。好きにすればいいさ」
山の間からの夕陽に照らされ中尾さんの瞳は太陽の色に染まっていた。
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