LINK00 不適合者の力

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LINK00 不適合者の力

俺はゲームをやらない。 いや、正確にはネットゲームの類はやらない。 なぜなら、どんな類のゲームもいつの間にか俺の都合の良い展開になってしまうことが多いからだ。 「そりゃ、いいじゃないか!」だって?? あんた、画面に流れるゲームPVを眺めて自分がプレイした気分になるか? 俺にとってはすべてのゲームがそんな気分になっちまう。 だから俺はトランプ、花札のカードゲーム、もしくは昔ながらの「人生ゲーム」などというボードゲームのほうがよっぽど面白い。 だが、今の時代、そんな骨とう品屋に置いてあるゲームなんてお目にかかることはない。 ゲームの話ならまだいい。 俺の場合は事がもっとやっかいなんだ。 「クソ! 急いでるのに!」 俺は飲食店へのおしぼりの配達をしている。 ただでさえ、週末で忙しいのに腹痛で休んだ奴の地域まで回らなきゃいけない。 いったい何時にこの仕事が終わることやら.... そのうえ、さっきから信号が俺の邪魔をする。 早く変わりやがれ!! ようやく青に変わった信号をきちんと守り車のアクセルを踏んだ。 フォン!! という音とともに赤色灯が見えた。 「ち....ついてない!」 覆面パトカーから降りてくるのは、どうせいつものあの人だ。 「月人、まただぞ。約1.5秒だ」 「中尾さん、今日は急いでるんですよ」 「仕事だろうが、トイレだろうが、お前は気持ちをもっと自制しろ。俺はお前を心配してるんだぞ」 「わかってますよ。つい仕事に追われて『思って』しまったんです。気を付けます。」 「まぁ、いい。今日はたまたま出ちまったんだろうからな。でも普段から気をつけろよ。お前に何かあったら、お前の親父さんに顔向けできない。それといい加減仕事なんてやめてしまえよ」 「それは無理ですよ。だって仕事してなきゃ俺なんか存在していないのと同じじゃないですか」 「....一応、記録だけはつけておくぞ。IDカードを出せ」 「はい」 『東京都渋谷区笹幡町〇―2198―16F 赤根月人(あかねつきと) 21歳 抹消・有』 「お前ももう21歳か。何か相談がある時は遠慮なく言えよ」 中尾さんにはある意味申し訳ないと思っている。 俺が生きているばかりに、こんな監視の職務についていなきゃならないのだから....」 ・・・・・・ ・・・ やれやれ、やっとこの店で終わりだ。 「ありがとうございました! またよろしくお願いします」 「あら、ちょっと待って月人君。あなた、ケガしているんじゃない?」 「ああ、さっき荷物下すときにひっかけたんです。かすり傷です」 「ちょっと、待ってね。絆創膏あったかな? あった! あった!」 「大丈夫ですよ」 「大丈夫でもいいの! ほら、貼るよ!」 「..どうも....」 「うん。じゃ、気を付けてね」 「はい、じゃ。伝票、ここ置いておきますんで」 俺が出ていこうとすると、見るからに取り立て屋と宣伝するような輩が入ってきた。 「真矢さん、こんにちは」 「東さん....ちょっと、今月は待ってくれないかな?」 「でもねぇ、先月分もまだ残ってるんですよ。ほら、これを見てくださいよ」 「わかってる。来月の頭には払えると思うから」 男が見せているのは電子証文の類だろう....あれが銀行の加護のもと合法化されているのだ。 汚い世の中だ。 「みなさん、そういうこと言って雪だるまになっていくんです。真矢さんを大切に思ってるから言ってるんですよ。ねぇ」 「わかってるから」 「なんなら、まぁ、私の思いってやつを受け止めてくれれば、こちらもいろいろ考えてもいいんですがねぇ....」 「あの、真矢さん、俺、失礼します」 俺には関係ないことだ。 全然、関わり合いがないこと。 俺は店から出てドアを閉めた。 ただ、親切にしてくれた真矢さんが困るのは嫌だな。って少し思った。 ドアの向こうから声がした。 「なんだ! こりゃ!! ....バグか? いったいなんだ!!」 闇金野郎はドアを開けると慌てて出て行った。 たぶん今頃、奴の会社の電子証文なんて、青虫が葉っぱをザクザク食べるように、この世から消えてしまっているだろう。 「あ~あ、中尾さんに何て言い訳しようかな......」 それは起きたり起きなかったり。 いや、本当は起きないことのほうが多い。 俺は不適合者なのだから。 あの日、ただの替え玉として用意された偽の器なのだから。 ******* とてもやわらかい色。 これは葉っぱだね。 陽ざしの中、とても綺麗。 ありがとう。 見せてくれて。 あなたの名前は?
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